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4-5

 文音が良明と2人でクリニックへ戻ると、そこには朝比奈が来ており、松島先生と何やら話していた。良明は、「朝比奈さん。ここで何をやってるんですか?」と朝比奈に聞いた。朝比奈は、良明に向かって手をあげ、そして文音を見ると、満面の笑みで手を振った。それを見た文音は、朝比奈に軽く頭を下げた。

「いや、文音ちゃんがどこで心理的治療を受けているか知りたくて、俺の元同僚に西沢美夜古の家族について情報持っている奴がいてな、そいつから聞いたんだ」

朝比奈がそう話すと、良明は驚いた顔で、「そんな人がいるんですか?プライバシーとか」と言った。

 文音にはその人のことが見当ついていた。年に一度、姉の事件を調査していたと言い、文音を訪ねてくる人がいたのだ。

「いや、ただ見守っているだけだと思う。そいつは、西沢美夜古のこと取り調べたやつでな、判決が下ってからも度々拘置所に面会に行ってたらしい」

 それは文音が初めて聞いたことであった。年に一度訪ねてくるその人は、高身長でとても優しい顔をした人であった。スーツ姿で、しっかりとネクタイを上まで上げており、その風貌からも言葉づかいからも真面目さが伝わってきたのだ。

「朝比奈さん。その人は、今どこにいますか?」と文音は朝比奈に聞いた。

「今は、西沢美夜古事件の活躍が認められて、福岡県警の管理官になってる。上司だな」

朝比奈がそう言うと、良明が「へー」と言いながらうなずいた。

「そんなに偉い方だったんだ」

「ん?文音ちゃんはその人のこと知ってるの?」と文音は朝比奈に聞かれた。

「はい。一年に一回会いに来るんです。私に」

と文音が話すと、良明は「優しい人だな」と上を向きながら言った。

 朝比奈は右手を自分の鼻に持っていくと、「うーん」という声をあげながら、病院の待合室内を歩き始めた。「そいつ、優しいんだけどな、少し優しすぎるかな」と朝比奈は言いながら、松島先生の顔を見ると、「先生。優しいっていうのも限度があるんでしょ」と松島先生に尋ねた。

「そうですね。優しすぎると、その人は多分きついと思います」と松島先生は見解を述べた。

 文音はその時、姉のことを思い浮かべていた。優しくても人を殺す。文音にとって、西沢美夜古は本当に優しい人間であった。彼の手にはナイフも拳銃も似合わないと、今でも文音は思い込んでいる。しかし、姉は殺人を5件も犯してしまったことになっているのだ。

 もしかすると、美夜古の優しさが殺意に変わってしまったのだろうか。だとしたら、自分の姉はあの時どんなことに悩み、どんなことで苦しみを抱えていたのだろうかと文音は考えていた。

「そういえば、江川聡に殺害動機を持ってそうな人間がいたぞ」

朝比奈が唐突にそう言った。朝比奈はその時、良明に視線を向けていた。

「動機って、西沢美夜古にあこがれを持つ青年を追っているんじゃないんですか?」と良明は両手を横に広げて言った。文音の目から見て、とても驚いている時の良明であった。良明の問いに、朝比奈が一呼吸おいて話し始めた。

「一応、それが基本線だけど、それ以外もやっとかないと。もし、一つの線だけ追いかけてて、反対に真実があやふやになるのが一番困る」

「そうっすね…」と良明が言った。

 文音はその時、どうせならその動機を持った人が犯人だったらいいと思った。もし、姉の模倣犯であったら、姉は死んでまでも罪を犯していることになるのかもしれない。それなら、動機を持った人がいいと考えた。


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