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2人はクリニックを出ると、近くのファミレスで朝ご飯を食べることにした。朝のファミレスは客がまばらで席もすいていたが、店のルールなのだろうか、文音と良明はウェイトレスにエスコートされ禁煙席に座った。
文音はこのファミレスでは、ハンバーグ定食が人気だということを知っていたが、朝からそんなものを食べる気にはなれず、朝定食を注文した。その一方で、良明は「朝カレーだ」と言いつつ、カレーライスセットを注文していた。
「朝からよく食べるね」
「朝だから食べないと。それに、カレーライスを食べると、少し頭が切れるようになるんだって」
「それどこで聞いたと?」
「どっかで聞いた。どこで聞いたかは忘れたけど」
良明はこのようなうんちくを話すことが度々あった。そして、良明がうんちくを語るたびに文音は、その情報はそこで仕入れたのかを聞くのであったが、毎回分からないと上手くかわされていた。したがって文音は、良明のうんちくを50%くらいしか信じていなかったが、うんちくを語ることができる良明は、頭が結構いいのだろうと思っていた。
文音は注文した朝定食を待っている間、同時にドリンクバーを注文していたので、飲み物を良明と注ぎに行った。良明はコーラを注いでいたが、文音は朝からそんな砂糖だらけのものを飲めるわけがなく、普通にウーロン茶をコップに注いだ。
席に戻ると、良明が少年だったころの話をし始めた。
「俺さ、ドリンクバーの飲み物、全部混ぜて飲んでたんだよね」
「全部は、不味いんじゃない?」と思わず文音は笑った。
「それが、美味いとは思わないんだけど、結構いけるんだよ」
「うそ~。でも、私もメロンソーダーにウーロン茶を混ぜたりとかしてたな」
文音はその時、小学生の頃に家族で行ったファミレスでの出来事を思い出していた。文音の隣には、姉の美夜古がいた。殺人鬼とは無縁の表情であった、姉の姿がそこにはあった。美夜古はよく、文音にドリンクバーの流儀などと語りつつ、コーラとピーチジュースを混ぜたり、様々な実験をしていた。
たまに不味くて、吐きそうになったコラボレーションもあったが、それはそれで楽しい思い出になった。この幸せが、すっと続けばいいと思っていた。優しかった姉が、死刑囚になるなんて、思ってもいなかった。
「どうした、急に暗い顔して」と良明が文音の顔を覗き込んできた。過去の思い出にふけっていた文音は、一瞬で我に返った。
「ううん、何でもない」
「お姉ちゃんの事、思い出してた?」
文音は、良明の言葉にうなずいた。
「ねえ、良明くん。昨日の首吊り遺体の事なんだけど。あれね、お姉ちゃんの最初に事件に」
「似てたんでしょ?」
「似てるっていうもんじゃない。あれは、そのままだった」
文音は、昨日の殺害現場が6年前の現場を完全再現していることを、良明に訴えた。
「私は、裁判を見ていたから、現場の写真も見てるの」
文音はそれを思い出すだけで、少しだけ気分が悪くなったが、すぐに水を飲んで気持ちを落ち着かせていた。
「良明くん。それで、私、考えてた。あんなことできるのは、6年前の現場見た人しかいないよ」
文音が核心に迫ることを言うと、良明は黙ってうなずいていた。良明は、手元にあったコーラを一気に飲むと、こう話した。
「西沢美夜古への憧れを持っている人とかだったら、裁判を傍聴していることもあり得るな」




