4-3
文音が目を覚ますと、そこは先日も寝ていたクリニックのベッドの上であった。頭上に置いてある時計を見ると、時間はちょうど9時を指している。一瞬夜かと思ったが、明るい光がカーテン越しに差し込んでいたので、朝の9時だということに気付いた。ここで文音は、自分がショッキングの光景を目の当たりにした後、ここで一晩寝て過ごしたことを理解した。
昨日のいつごろまで記憶があるだろうかと、文音は考え始めた。男性の死体が見つかったマンションに、松島先生が来たところまでは覚えているのだ。良明が自分を「大丈夫。大丈夫」と諭すように落ち着かせようとしていたことも記憶にある。文音の最後に記憶は、松島先生の車の中だ。パニックになりかけていた文音を、松島先生は社内で抱きしめてくれたのだ。文音は、松島先生の腕の中で落ち着きを取り戻し、その中で意識が無くなったことを思い出した。
文音は、自分があそこまでパニックに近い状態になったのは久しぶりのことだと感じていた。何がそうさせたのかを考えてみると、単にあの遺体だけではないと自分の中で検討がついた。文音が、姉の美夜古の裁判で見せられた1件目の殺人現場の写真をそのまま再現していたからだ。いつも自分がフラッシュバックで見ていた光景が、実際のものとしてその場に襲い掛かってきたのだ。
文音は、良明が居なかったら、松島先生が来てくれなかったら、どうなっていたのだろうかと考えていた。
文音がいた病室の窓が開いて、松島先生が入ってきた。松島先生は、文音の顔を見るなり、「ようやく起きたか!」と笑顔で話しかけてきた。
「おはようございます」と文音はお辞儀をしながら言った。
「なんだ。堅苦しいな」
松島先生は、病室の窓際の方に回り、一気にカーテンを広げた。病室に朝の太陽の光が差し込んでくる。松島先生は、その光を浴びながら手を大きく横に広げた。
「ああ、気持ちいい!文音ちゃんもやってみ。気持ちいいから。朝の光はさ」
文音は言われるがままに、窓際に立った。そして、松島先生の真似をするように大きく手を横に広げ、太陽の光を体全体で浴びた。
「どう?文音ちゃん。気持ちいいでしょう」
「気持ちいい!」
すごく暖かかった。真夏の太陽であるが、朝の光は程よく暖かかった。その暖かな光は、文音の心の奥まで染み渡るような感覚があった。
「そう言えば、良明くんが心配して来てるよ」
「良明くんが?」
文音はその名前を聞いて、慌てて病室にあった鏡を覗き込んだ。寝癖が立ち、髪の毛がぼさぼさであった。
「私が寝癖はしてやるから。そのままでも、可愛いけどな」と松島先生がほくそ笑みながら言った。
文音はとりあえず寝癖を直し、顔を洗い、目やにをとってから、良明の元へと向かった。良明は、文音と目を合わせるなり、満面の笑顔になって「元気そうでよかった」と安心しているかのような声を出した。
「心配かけてごめん。昨日は、ありがとう。何か、大丈夫って言ってくれてたから」
「ああ、いやそれは」
良明は頭をかきながら、照れた様子を見せる。
とりあえず2人は、まだ食べていなかった朝ご飯を食べに行くことにした。とはいっても、文音は一応入院中ということで、松島先生の外出許可が必要だった。文音は松島先生から、絶対に昨日の現場には行かない




