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服田が早苗からその冊子を受け取る。『都市開発計画』と書かれた表紙の次ページを開き、服田は息をのんだ。何も言わずに、その冊子を相沢に渡す。
「チラシでは配られてたらしいけど、こんなに」と驚愕した声を上げた。
確かに、良明は山西徹也が自殺したマンションがある町で都市開発を行うという計画を耳にしたことはあった。その町には、福岡産業大学もあり、学術研究都市に生まれ変わるという話を聞いていたのだ。
「都市開発の話なら聞いたことがあります。僕が通っている大学周辺に、筑波研究学園都市みたいな学術研究都市を作るとか」と良明は、服田と相沢に向けて言った。
「でも、これはあまりにもひどいわ」と相沢が言う。
「どういうことですか?」
良明の言葉に、服田が反応し、話し始めた。
「こんなめちゃくちゃな都市開発があっていいものか。この開発計画を見る限りでは、町の老人ホームや民間の保育園、孤児院までもが立ち退きを余儀なくされる」
「弱い人たちが、生きる場を奪われることになるんですか?」
良明がそう言うと、服田は静かにうなずいた。
服田が言った孤児院とは、西沢美夜古が5番目に殺害した施設長がいたところであろう。しかし、今は良明にとってそんなことはどうでもよかったのだ。
「確か、6年前にも都市開発の話があがってたな」と服田が言った。それに対して相沢は、「はい、確かに6年前にもこのような計画はこの町でありました。しかし、こんなにめちゃくちゃじゃなかった。『バリアフリーを創り、進める、研究都市』というキャッチコピーまでついてたわ」
2人の話を聞く限りでは、6年前にもこの計画があったことを、良明は理解した。そして、それはバリアフリーを研究するための優しい都市計画であったことも。
その中で、良明は引っかかったことがある。“6年前”ということである。6年前の2008年は、西沢美夜古が5人もの男性を殺害し、逮捕された年でもあるのだ。しかし、良明は偶然の一致であると、心の中に留めておくことにした。
「徹也くん、これを見て、なんか言ってたの?」と相沢が早苗に問いかけた。
「何も言ってません。ただ…」
「ただ?」
「いじめられてても、怒ったりしなり徹也なのに、怒ってた」
早苗はそれから、うつむき、両の手で目を抑えた。そして、顔をあげてこう言い放った。
「私、分かるんです。徹也が今どう感じているとか。好きだから、分かるんです」
良明はその涙を見て決意した。人の死に直面して、悲しむ人を少しでも救うことができるなら、自分にできることをしようと。
この早苗のことも、文音のことも。
服田は、「この都市計画を止めようとか、思ってたのかな」と言いながら、事務所においてあるソファーにダイブした。その頃、すでに相沢と早苗は事務所を後にしていたのだ。
「徹也くん、きっと優しかったんですね」
「優しすぎたのかもしれないな」と服田が感慨深げに言った。
「どういうことですか?」
「優しさはな、たまに自分を殺すこともあるし、ましてや殺人につながることもある」
「まあ、自殺は分かりますけど、殺人は服田さんの偏見でしょ」
良明はそう言いながら、服田の前においてある椅子に腰かける。
「いや、偏見じゃない。俺が経験した事例だ」
「どんな?」
服田は、煙草を取り出して、珍しくライターではなくマッチで火をつけた。そして、良明の質問に答え始める。
「俺がまだ新人の頃かな。ちょうど、福岡じゃなく他県にいたんだが、ある連続殺人事件が起きてよ。警察の捜査は難航していたが、息子を殺した女性の逮捕により一気に解決した。どういうことだと思う?」
良明は、服田の優しさは人を殺すことがあるという言葉から、この問いの答えを導こうとした。優しさとは何か。ただ、人を許すとか甘やかすといったことは、心理学上の優しさではない、同情ではない。本当の優しさとは。考えつくし、たどり着いた答えに良明はまさかと思った。
「殺された息子が、連続殺人の犯人だった」
良明の答えに、服田は「さすがだな」とつぶやいた。
「息子を連続殺人鬼にはしたくない。私が罪を被ろうと考えていたが、息子はサイコパスだから、身代わりになっても、また人を殺すと考えたんだ」
「自分が罪を被るために、息子を殺した」
服田がうなずいた。良明は人間を知ろうとするほど、怖くなる時があるが、今まさにその状況下に置かれていた。




