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4-1

 自宅で良明が朝比奈から電話を受け取ったのは、午後7時を回った頃であった。被害者、江川聡の死亡推定日付が明らかになったというのだ。朝比奈の話によると、死因は窒息死で約1週間前には死んでいたことであった。毎日気温が30度を超える猛暑のせいで、遺体の腐敗が早く進んでいたのだという。

 良明と朝比奈との会話は、そのあとすぐに殺害現場と被害者の自宅に届けられた数字が書かれた紙についての話に移った。殺害現場のポストに入っていた紙に書いてあった数字は“3”で、被害者の自宅に届けられた数字は“18”である。この数字の誤差は何を意味しているのだろうか。次に2件の殺人を犯そうとでも犯人は企んでいるのか。良明はそれが不安でならなかったが、それは朝比奈も同様であった。

 良明は朝比奈との電話を終えると、自分の部屋から下の階に下り、探偵事務所に顔をのぞかせた。そこには、母の章子と服田、そして、自殺したと思われている高校生、山西徹也の恋人であった樋口早苗の姿があった。

「早苗ちゃん。どうしてここに?」と良明が早苗に問いかけると、早苗は静かに会釈をした。

 早苗が口を割らない代わりに服田が、「早苗ちゃんが何か伝えたいことがあるから来たって」と良明に告げてきた。

 良明が早苗の表情を見る限りでは、かなり緊張している様子であった。あの時、自分たちに隠していることでもあったのであろうか。手は小刻みに震えている。

「話したくなかったら、話さなくてもいいのよ」と章子が言った。早苗の様子を見ていて、咄嗟に出た言葉なのだろうか。章子のその声は、良明が今まで聞いたことがないくらい優しい声であった。

「いや、話します。私、徹也が自殺じゃないかもしれないって聞いて、そんなあやふやなまま終わったら、悔しいて思ったんです」

 良明は早苗の顔をじっと見ていた。その表情は、人の死に向き合おうとする文音にかぶって見えた。この子も、恋人であった少年の死に触れるのがつらいはずだ。しかし、樋口早苗は立ち向かっている。無理をしてでも、立ち向かおうとしているのだ。

「分かった。分かったから」

思わず、良明の口からその言葉が出ていた。

 その時、事務所につけてあるインターホンが鳴らされた。事務所のインターホンは、自宅のインターホンとは分けて設置されている。良明が住んでいる家の構造は3階建てで、1階に探偵事務所、2階に久米家のリビング、3階に良明の寝室があるのだ。外部からの訪問者は、久米家に用事がある場合は2階のインターホンを、探偵事務所に用事がある場合は1階のインターホンを押すことになっている。その注意書きも目立つように書いてあるし、それぞれで音も分けているのだ。

 というわけで、1階のインターホンが鳴らされたということは、探偵事務所に用事がある人物だということである。章子が「私が行くわ」と言って立ち上がった。

「あら~桜ちゃん!」と章子の明るい声が飛んできた。

 山西徹也の自殺について、調査協力をしてもらっている相沢桜がやってきた。良明は、今日の昼間に殺人事件の現場であったばかりだったので、苦笑いで会釈をした。

 相沢は、早苗を見るなり、「徹也くんの彼女か」言い、「大丈夫かい?」と声をかけていた。それから、早苗に自己紹介を行う。早苗は、「刑事さんまで、ありがとうございます」と相沢に言っていた。

「それで、俺たちに伝えたい事って、何?」

服田が本題に戻そうして、早苗に聞いた。早苗はうなずくと、良明たちの目の前に一つの冊子をおいた。その冊子の表紙にはタイトルが書いてあり、大きく『都市開発計画』と書かれてあった。

 良明はそれを手に取り、「これは何?」と早苗に聞いた。早苗は、「徹也くんが死ぬ2日前なんですが、これを預かっててほしいって言われました」と言った。


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