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天使の微傷~殺人鬼の真実~  作者: 高見 リョウ
悪魔のシナリオ 再び
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31/62

3-11

 遺体の身元が分かったのは、それから1時間ほどたってのことであった。その時良明は、朝比奈とともに事件が起きたマンションの下の階、エントランスにいた。

「朝比奈さん。身元は、江川聡。職業なんですが、株式会社コレックスの取締役です」

 朝比奈の元に来た刑事はこう言った。株式会社コレックスとは、近年上場企業として営業売り上げを伸ばしている、経済界注目の会社である。

「その、取締役が何でこんなどころで…」と良明は朝比奈に向かって言った。

それに対して朝比奈は、「分からん。それもあの時と同じだ」と答えた。

「あの時と同じ…」

「ああ、あの時も、全く違う職種の人間が次々に殺された。殺害の動機で、仕事関係の裏事情も模索していたが、それは考えにくかった」

 朝比奈はそう言いながら、ライターを取り出し、煙草に火をつけた。一口吸って、大きく吐くと、白い煙がエントラスの中に充満した。

「朝比奈さん。ここは、人がたくさんいます。禁煙ってことくらい分かるでしょ」

煙を見た相沢が飛んできて朝比奈にそう言った。さらに、「良明くんが副流煙でも吸ったら、どうなるんですか?」と続ける。

「大丈夫ですよ、相沢さん。母も服田さんも、家の中でぽかぽかふかしているので、慣れてます」

と良明が言うと、相沢は「やーね警察は。良明くんは警察志望だけど、見習っちゃだめよ」

 相沢はそう言うと、良明にウィンクをして立ち去った。良明が思うに、相沢はとても綺麗で、かわいい女性に思えるが、なぜか心打たれるものは感じられなかった。

「ところで朝比奈さん。5年前の犯人について、共通しているところはありましたよね。年収が2千万円以上で、ある程度の階級であるということです」

と良明が言うと、朝比奈はうなずいた。それから、「だからだ」と一言つぶやいた。

「警察はな、あの時、西沢美夜古と5人の男性の恋愛関係にあったことを、美夜古本人の証言から得ることができた。さらに、美夜古の殺害動機は、5人の男から多額の金品を受け取るため」

「それも、証言なんですか?」

良明の言葉に、朝比奈がうなずいた。お金を持った男から、金品を得るために犯行に及ぶこと。それは、近年日本の犯罪においてよく知られる動機になりつつあることを、良明は知っている。

「実際に、長く付き合っていたのは、5件目に殺された時田和夫」

「孤児院の施設長ですね」

「ああ、しかも、時田の貯金通帳を管理していたのは、美夜古だ。時田が殺された直後、多額の金が美夜古の通帳に流れていた。しかも、それ以前に前の4件の被害者の通帳から、時田の通帳に多額の金が流れている」

「どういうことですか?」

「つまり、美夜古は時田の通帳を自分の通帳と偽り、付き合った男性から何らかの理由を言って金を巻き上げていた。これも全て、美夜古の証言だ」

 良明は初めて美夜古の本当の動機を聞いた。あの時、ニュースでは動機は不明だという報道がなされていた。5人もの男性との恋愛のもつれで、美夜古は1度に何人もの男性と付き合える異常性欲者とする報道もなされていた。

「朝比奈さん」

先ほど、男性の身元を明かした刑事が、朝比奈の元に走ってくる。

「大変です。被害者の自宅も割れたのですが、被害者は家族と別居中で、先ほど警察官が自宅に行ったのですが、また紙が…」

「紙だと!」と朝比奈の怒号に近い声が飛んだ。

「何と、また番号で、今度は、18と書いていました」

 良明にもその声は聞こえた。“18”は、ここに入っていた紙に書かれていた番号とは違う。ここで見つけた紙には“3”と書いてあったのだ。

悪魔のシナリオは、違う様相を見せ始めていた。

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