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天使の微傷~殺人鬼の真実~  作者: 高見 リョウ
悪魔のシナリオ 再び
29/62

3-9

 文音の姉である西沢美夜古が、最初に起こした殺人事件は、福岡市東区にある高級マンションである。驚いたことにそのマンションは、現在、文音が住んでいるアパートから目と鼻の先にあり、先日、山西徹也が自殺したマンションの真ん前に建っているものであった。

「住所見てまさかとは思ったけど、本当にこことは思わんかったバイ」と良明は大きく口を開けていた。

「そう言えば、ここで私に会いたい人がいるって言わなかったっけ」と文音が良明に聞いた。良明は、「そう。もうすぐ来ると思う」と文音に返してきた。

 良明の話によると、その人とは西沢美夜古が犯した最初の殺人現場で落ち合うということに決めていたらしい。文音が「その人って、どんな人?」と良明に尋ねても、良明は「会ってからのお楽しみ」とその一点張りであった。

 それからしばらくして、良明が「お!いらっしゃったよ」と町の商店街がある方向を見て言った。文音は良明につられる様にして、商店街がある方向を見つめた。

 文音は、そこから現れた人間を見て息をのんだ。それはよく知っている人というより、生涯で忘れてはならない人であったからだ。

 その人は、文音が殺人犯の妹として、マスコミやネット民により好奇の目にさらされていた時、唯一の味方となって守ってくれた人である。

 その人の名前は、朝比奈剛助。福岡県警の捜査一課に所属している刑事だ。

「久しぶりだな。文音ちゃん」

「お久しぶりです」

文音の目から自然に涙があふれ出てきた。

「久々なのに、泣くのか。まいったな…」

 文音が見た朝比奈の優しい表情は、あの頃と変わりがなかった。あの時、自分を守ってくれたただ一つだけの強く、優しい顔つきのままであった。

 当時の被害者は銀行マンであった西口一平で、家族がいた。姉の美夜古は、西口を首つり自殺に見せかけて殺害している。

 殺害現場は、マンションの3階である。あの事件以来、この部屋には1人の住居者も入居していないらしい。全て良明から聞いた情報であるが、その情報源は朝比奈ということであり、かなり現実味があると思われる。

「良明くん。一応、あの部屋の合鍵は刑事として借りるつもりだが、なぜもう一度あの部屋に行きたい?」と朝比奈が良明に尋ねる。すると良明は、「部屋は、壁とか事件当時のままなんですよね?」と言った。朝比奈は、良明のその言葉にうなずいていた。

「朝比奈さん。つまり、壁とかに、殺害時に争ったとみられる傷が複数ついていたら、女性1人で犯行に及んだ可能性が、少しは低くなるのかなと、素人なりに考えたんですよ」

と良明が言うと、朝比奈は大きな声で笑い、「確かに、素人が考えそうだ。壁に傷があったって、当時の子どもが傷つけた傷かもしれんし、夫婦げんかでできた傷かもしれんもんな」と答えた。

 ちなみに、加害者である西沢美夜古と被害者の西口一平は、交際関係にあったということになっている。実際に美夜古が逮捕された後、美夜古は西口と不倫関係にあったことを認めており、天神にあるレストランのウェイトレスが2人が食事に来ていたのを確認しているのだ。それを知った時、文音のショックはさらに強いものになった。美夜古はさらに他の被害者である4人とも不倫関係にあったと証言している。

 朝比奈はマンションの守衛室で西口一平宅の鍵を借り、その後3人で3階に上がった。いよいよ最初の殺人が行われた部屋の前に立つ。文音は動機が収まらず、良明の腕にしがみついていた。

「大丈夫?」と良明が声をかけてきた。文音は笑顔を作ってうなずく。

「文音ちゃん。君がここに来たいという気持ちも分かるが、無理だと思ったら入るな」と朝比奈が言った。しかし文音は、「大丈夫です」と朝比奈に応じた。

 朝比奈は文音の言葉を聴き届けると、なら分かったというふうに、勢いよく鍵を部屋のドアに差し込んだ。そして、それを回すと一気にドアを開く。

 ドアを開けると、そこは薄暗い通路が続いていた。恐らく、この通路を通って行けば、西口の遺体が見つかったリビングということになる。3人は靴を脱ぐと、恐る恐る通路を渡っていく。

 事件後、家族はすぐに引っ越したということで家具などは残されていない。薄暗い通路をゆっくりと進み、リビングにつながるドアに手にかけたところであった。

「何か臭うな…」

突然、朝比奈がそう言ったのだ。その臭いは、文音の鼻にもしっかりと届いていた。良明もその臭いを感知しているようで、鼻を抑えている。

「まさか」と朝比奈がつぶやき、良明と目を合わせた。良明は朝比奈に頷き、そのドアをゆっくりと開け、中に入った。

「朝比奈さん!」と良明が叫ぶ声が響く。

 朝比奈がリビングに入って行く。文音それにしたがって入ろうとしたが、良明の「文音ちゃんは、入っちゃダメだ」という声が聞こえた。しかし、文音はすでにリビングの中に入っていた。

「ぎゃーーーーーー!!!!!!!!」

文音は、そのリビングの中央に吊るされていたものを目にして悲鳴を上げた。そこに吊るされていたものは、少しだけ腐敗が進んだように思われる、男性の遺体であった。


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