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服田も遺体の写真を凝視し、大きく頷いた。「なるほど、ここから下に落ちたとして、何かに当たるわけでもないし、飛び降り自殺なら足から落ちるのが普通だな」
その服田の言葉には、元刑事としての自信が見え隠れしていると良明は感じた。しかし服田は、警察が自殺と断定した重要な証拠の検証を忘れてはいなかった。
「しかし、筆跡鑑定で徹也くんが書いているとされた、遺書を覆すものとしては不十分だ」
服田のその言葉に、相沢も大きく頷いた。
「そうなんだよね、遺書は徹也くんが書いたらしいから」
相沢はそう言いながら眉間にしわを寄せた。装着されたメガネの奥の眼光は鋭さを一気に失っていた。
しかし良明は、昨日服田との会話で、警察は遺書の内容までは確認していないと、服田から聞いていたことを忘れてはいなかった。
「そういえば、服田さん、徹也くんが残した遺書の内容は?」
「そうだ、遺書の内容は?相沢」
服田は良明の言葉に反応して、思い出したように相沢に聴いた。相沢は、自分のバッグから新たな資料を取り出して、こう言った。
「ごめんなさい、死にます」
相沢がこうつぶやいた瞬間、しばらくの沈黙が続いた。良明が予想していた内容とは、かなり開きがあったからだ。
「それだけ」と服田も不意を突かれたように、相沢に尋ねた。相沢は、「それだけです」と淡々と答えた。
「普通は、もっと多くの言葉を書くものじゃないんですか?」と良明は相沢に尋ねる。
「でも、自殺っているのは衝動的な部分が多いし、短いのもあるんじゃないかな?」
「確かに」と服田は相沢の意見に同意した。
良明はよく考えてみた。自殺はどんな時にするのか。
自殺は、人間が耐えられない苦痛から逃れるための最終的な防衛反応として行われると、心理学の精神分析では言われている。大学の講義で習ったことだ。
その自殺には若干のパワーがいる。死ぬための力である。人間はひどく落ち込んでいる時には自殺なんてできない。一番危ないのは、回復期である。
もう一つ、自殺をする人はその時になると、死ぬことで頭がいっぱいになってしまう。死に対する恐怖心がなくなるのか、少しでも、その恐怖心があると、死ねないという専門家もいるほどである。
だから、死ぬときは一気に死ぬ方向へと向かっていくのだ。特に飛び降り自殺は恐怖心を抱きやすい。飛び降りる時は、下を見ずに一気に飛び降りようとする。
と考えれば、遺書が短いというのも理解できるかもしれない。飛び降りるときに衝動的であったなら、さっと遺書を書いて、すぐに死んだのかもしれない。
その時、良明の脳裏に絶対に確かめておかなくてはいけないと考えられるものが、頭の奥で引っかかり始めた。衝動的に自殺するのであれば、止まることなく策を飛び越えるはずである。
ならば…
「指紋、相沢さん、指紋は?」
良明がこう言うと、相沢が振り返り、「確か、塀のところの指紋はとっているはずだけど」と言った。
「どう言う感じで指紋は付着していましたか?」
「どう言う感じって?」
「えっと、塀の外側に、指紋はついてましたか?」
相沢は、「どういうこと?」と呟き、考え始めた。良明は塀の近くに行って、何度も手をついて下を見下ろしている。その時、良明が「そういうことか!」と声をあげた。
「どういうこと?」と相沢は良明に尋ねる。良明はその問いに、「心理学を学んでいる、あいつだから見つけ出せたことだ。あいつに聴け」と言い、良明を指さしてきた。相沢は良明を見つめた。
そして、良明は塀の近くによって、実演を交えて話し始めた。
「飛び降り自殺は、衝動的におこるものです。だから、飛び降りようとしたら一気に飛び降りてしまいます。だから、塀の指紋が着くなら、塀の内側か、上についているのが普通だと思ったんです。つまり、外側に指紋があれば、徹也くんは躊躇した、若しくは落ちないように抵抗した証拠になると考えました」
相沢は、それから資料を何度も見た。そして頷く。
「あるよ、塀の外側に徹也くんの指紋…」




