二十四話 「宿命」
大家姉の乗る飛行機は、緊急着陸をする。
唐突だが、こうなったのには理由がある。テロの影響で、管制塔が死んだのだ。生憎、飛行機が着陸しようとする頃には、テロの攻撃が止んでいて、近辺の状況がわからなかった。
着陸態勢に入った飛行機に流れ弾が被弾し、不安定な状態での着地を余儀なくされた。
異常な振動と騒音が、機内を襲う。
「んばばばばば」
振動と共に、機体の下の方から、アスファルトと何かが擦れる音がする。
飛行機は、無事止まった。
緊急出口が開いて、脱出スライドが展開れる。
その時、アナウンスで、乗客が案内され始めた。
しかし、大家姉は乗客やCAの目を盗み、床から貨物室に侵入した。そして、人一人の原寸大の荷物を回収した。穴が空いていたので、そこから外に出る。
大家姉は外が荒れているうちに、ドールを処理しに走った。
「アタシのことは、置いていってください......」
「馬鹿言えっ......そんじゃ誰にも顔向け出来ない」
カチャン、カチャンと足音を立てながら、優子は同僚を背負い、建物の下を歩いていた。
「手も義手で、足も義足なんでしょう?そんなので人を運ぶだなんて」
「生身よりは丈夫だよ......それに、あとはこの道を渡れば、少しは安全な空港に着く」
「やめてください、屋根もないのに」
「ここにいれば――」
「バカ言うなアホ、クソ上司。奥さんも子どももいるのに、最低。早く一人で行け」
「......せーのっ」
優子は背負い直して、早歩きで空港前の道を進み出した。
「最悪!」
「思ったんだけど......なんで二者択一が前提なの?就職試験やり直す?」
「綺麗事と出来る事は別物なんですよ、わかりますか?」
「悪いけど、綺麗事実践するお仕事なんだよ、これは」
優子は、内心「かっこいいこと言った」と思っていた。
「......その割には、今日の仕事断ってましたけどね」
「やりたくない仕事もあるの」
「......」
その時、小さな無数のミサイルが、街に降り注いだ。そして、それが優子たちの方にも漏れてきた。
「あ、危ない、ほら!」
「叫ぶくらいなら歩いて!?」
「いやーーー!!」
「うるさーーーい!!」
上空にある爆弾は、もう地面に落ちてきそうだった。
(私って、何なのだろう......)
私は、生まれた時から誰かの代わりだった。
誰の身代わりなのかも知らなかった。
ただ、あの人の「姉」としての......あ、嘘。本当に姉弟の関係なのかはわからなくなってるけれど、その役割で消費される日々だった。
状況が変わったのは、本物の姉が私を見つけてからだ。
本物の私は、私を川に捨てた挙句、ぐるぐる巻きにしてどこかに閉じ込めた。
まあ......捨てられたのはちょっと、って感じだったけれど、でもいい休憩期間ではあった。
本物と出会ってから、何か本当にしたい事のようなものが、私の中に宿るようになった。
後悔と、庇護欲のようなものだ。
偽物がおこがましいかもしれないけれど、でも私もそれに突き動かされそうなのは事実だ。
今、きっと外では、私を処分しようと奔走している本物の私がいる。
でも、最期くらい、本物が望むように誰かのために散りたい。
......布がずれた。
外に、人をおぶって走っている一人と、地上で爆発するものが空から降り注いでいるのが見えた。
最期、これが本当に最期なら、あの場所で、偽物らしく、私の出来る最後の事が出来たら――。
ミサイルが降り注ぐ。
外れ弾が優子たちに落ちようとしていた時、突然大家姉が飛んできた。
バン!と、優子たちの上で爆発した。
「え......お、お姉さん?」
「今のって......人?」
「っ、バカ姉ー!!」
「誰がバカ姉だ!」
大家姉は、同僚を背負った優子を、同僚ごと蹴り飛ばした。
「ぐあっ」
「いたっ」
「早く走れカス!」
大家姉は爆ぜていなかった。
「今のは......」
「偽物だわ」
「えー......えぐい」
「何が。あれが私なら、あいつも本望だろ」
大家姉は、忌々しいラブドールをやっと処分出来て、清々しい気分だった。
「......ははっ」
「ふふっ」
「何だよ」
「いや......」
「――Hay!」
飛行機の方から、警備員が駆けてくる。
「あ、早く――」
「Run away!」
(逃げろ!)
「え?――」




