8 無茶の代償
ふらっ、と体が揺れる。原因を考える時間もなく、地面に座り込んでしまった。
「野村くん、どうしたの!?」
中瀬さんが心配そうに駆け寄ってきてくれた。いつもなら、僕のために嬉しいとか不埒なことが頭をよぎる僕だが、今ばかりは気分の悪さを抑えられない。
「大丈夫」
そう声に出したはずの言葉は微弱で、心配をかけたくないという思いとは裏腹に、体調が悪いことを彼女に伝えることとなってしまった。
「大丈夫じゃないでしょ。水分はちゃんととってたよね。毎日ちゃんと寝てる?三食ちゃんと食べてる?」
「健康には気を使ってた、はず…練習できなくなったら駄目だって思ってたから」
「とりあえず私の家に連れて行くけどいいよね。君の家、わからないし。あんまり喋れる状態じゃないでしょ?それに」
彼女の手が僕の額に触れる。
「っ」
思わず声が漏れたが、彼女は構わず言葉を続ける。
「ほら、なんだか熱い気がする。熱、あると思うよ」
「でも…家に入れてもらう訳にはいかないよ。君に感染ったら大変だ」
「そんなこと気にしなくていいの。悪化したくはないでしょ」
もう、逃れることはできなさそうだ。僕は腹を括って彼女の家に行くことにした。
「汚い部屋でごめんね。ご両親に連絡したんでしょ?迎えが来るまで、寝てくれていいから」
ぼくは中瀬さんの部屋に案内された。質素な部屋だが、壁に紙が貼ってある。しんどい体を無理やり動かして見ると、
「私ならできる 超えられる」
と書かれてあった。
「あっ、見ちゃった?」
「ごめん…」
「謝らなくていいよ。私の不注意だし」
とはいえ、何を超えたいのだろうか。
「気になるよね」
僕の心情を読み取ったのか、彼女から話してくれた。
「気になるけど、言いたくないことじゃないの?」
「ううん、いいんだよ。あの時の続きというかね、補足になるんだけど」
「あの時?」
「うん。私がテニス部に入った理由。ほんとはね、やりきりたかったからじゃない。何か、何でも良いけど結果を残したかった。それが達成できそうなのがテニス部だったってこと。」
そこで彼女は一旦言葉を区切り、
「でも野村くんさ、しんどいでしょ?私の話、最後まで聞くと長いからさ、また後日にしよっか」
と僕を労ってくれた。でも、
「大丈夫だよ」
僕は緩徐の話を聞きたかった。それに、決して空元気ではない。どうせ迎えが来るまで時間がかかる。
「だから…聞かせて欲しい」
彼女は、少し迷ったようにこちらを見ていた。その表情には、心配が見え隠れしていたが…やがて頷くと、迷いの消えた表情の儘こちらを見つめると、
「私にはね、お姉ちゃんがいるの」
と僕に話してくれた。




