6 軍
テニス部に入部してから早1週間、僕は早くも疲れを隠せなくなっていた。中瀬さんはあれ以来あの表情を見せていない。僕の見間違いだったのだろうか。
授業が終わり次第、テニスコートに向かう。サボりなど言語道断な為、今日も家に直行する訳にはいかない。だけど、
「野村くん、もうラケット注文した?」
「うーん、まだ悩み中。ラケットって高いんだね」
今はラケットを借りて練習しているが、そろそろ自分のラケットを買わないといけない。ラケットとは存外高いもので、初心者用でも平気で1万を超えてくる。2万前後がほとんどだ。中瀬さんのような経験者が買うラケットは、3万超えがほとんどだ。坪井先生曰く、安いラケットは性能が良くないらしい。ラケットの真ん中の感覚と端の感覚が変わらないから、らしいが僕にはその違いの何がいけないのかわからなかった。でも、上達するにはラケットも妥協してはいけないらしい。うまくなるラケットを選べ、とは部活での坪井先生の口癖だ。
「そうだね。私はもう買ったけど、結構高かったなあ」
中瀬さんはもう、2年生と互角以上に打ち合えている。女子のレギュラーに選ばれるのも時間の問題らしい。いくら彼女が上手いとはいえ、それでも彼女より上手い人は沢山いるものだと思っていたが、どうやら将来有望な彼女に早いうちから経験を積ませようということらしい。
対して僕は、ようやく速球を交えてラリーできるようになった。とはいえ、僕が強打するわけじゃなくて、先輩が打った強打を返せるようになっただけである。それでも、先輩は素質がある、ラケットを持って1週間でそこまで打てるのは凄い、と褒めてくれたが、中瀬さんと比べてしまうと満足できる訳が無かった。クラスでは、彼女が今だ沢山の人に囲まれていて話せないので、接点らしい接点はこのテニス部ぐらいだ。だから、僕は彼女にアピールするためにも上手くならないといけない。
星陰高校のテニス部の練習は、4グループに分かれて行われる。上から1軍、2軍、3軍、4軍と言われていて、中瀬さんは既に2軍だ。入部したてで2軍は本当に少ないらしい。僕は、まだ4軍だ。
上の軍に行く為には昇級試合を行わなければならない。上の軍の人と試合し、実力をアピールするのだ。接戦を演じれば昇級はほぼ確実とされている。普段僕に教えてくれる先輩は、あと1ヶ月もすれば3軍に行ける、と言ってくれた。だが、彼女は夏までに1軍に行くのではと噂される存在だ。せめて、夏休みまでに2軍に上がらなければ。そのために才能がいることも、センスがいることも重々承知していた。勿論、そのどちらも欠ける僕は皆の2倍は努力しないといけないことも。
朝早く起きてランニングし、勉強。放課後は練習し、先輩に付き合ってもらって自主練。夜は筋トレと勉強。それが一日の流れだった。必然的に、睡眠時間が少なくなるため、授業中をどれだけ効率よく理解できるか、家での勉強時間をどれだけ削れるかに焦点を当て頑張った。




