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完璧超人の拠り所  作者: 薬研
1章
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6/20

5 テニス部の練習

星陰高校のテニス部はコートをなんと5面も持っているので、狭くこそ感じないもののかなりの部員が練習していた。しかし、何やら見たことのある人がちらほらいる。別に僕が上級生とよく関わっている、という話ではない。クラスメイトの女子が多いのだ。昨今、テニスというスポーツは女子に大人気なのだろうか。訝しんで周りを見渡し、納得した。囲まれているせいで見えにくかったが、顧問として坪井先生が指導していた。ラケットでボールを打ち返す軽快な音に紛れて時々黄色い声の謎も解けた。


初心者経験者関係なく大歓迎、とは部長が体験前に言った言葉だが、

「練習に音を上げない人」

という但し書きが抜けている気がする。それが、体験を通して得た僕の感想だった。多くの部活は、部員を集めるため体験期間は優しく指導しがちだ。僕も、中学時代、体験に来た新入生にいつもよりかなり優しめに接した記憶がある。しかし、どうやらテニス部は上手くなる気の無い奴はいらないようだ。


元からあまり体力が無かった僕は、練習が終わり解散する頃には疲労で立つことすらままならなくなっていた。周りを見ると、坪井先生目当ての女子生徒が疲労困憊で倒れている。保健室に連れて行かれている人もちらほらいた。彼女らの、そして僕の名誉のために言っておくが、決して特段体力が無かった訳では無い。今日の練習は体験だからまだ楽で、先輩は余裕そうな表情をしているが、決して体力が無い訳ではない。大事なことなので2回言わせてもらう。


中瀬さんは坪井先生に釣られてきた訳では無さそうだった。ネットすれすれを通る勢いのある球は、初心者のそれではない。あれはまぐれでも打てない威力だ。上級生とも互角に打ち合う姿は、とても初心者には見えない。そう思って彼女と先輩とのラリーを見ていると、休憩に入った様子の中瀬さんと目が会い、近づいてきた。

「野村くんもテニス部見に来てたんだ。結構練習きつかったでしょ?だから、知り合いが誰もいないんだよね。あのさ…君さえ良ければ、テニス部、入って欲しいな」

「勿論だよ。入るつもりで体験に来たんだ」

テニス部は素晴らしい部活だ。そういえば、坪井先生目当てで来ていた女子生徒はいつの間にか逃げ出していた。まだノルマの素振り200回残ってるのに。人目当てで来た人は根性がなくて駄目だね。


「良かったー。君がいてくれてほんと助かったよ」

ホッとしたように彼女は肩の力を抜いた。その言葉は、いつも本心の見えない彼女の数少ない本音に思えた。中瀬さんも知り合いがいない孤独な状態はきついのだろうか。


それにしても。体で感情を表現している様を見て、可愛いと思ってしまった。美しさの中に垣間見える可愛さに心を撃ち抜かれた。きっとこの笑顔を思い出すだけでどんなきつい練習にも耐えられる。いや、耐えてみせる。にしても、美しくて可愛いなんて反則じゃないだろうか。あの笑みを耐えれる男性なんていないだろう。


ノルマの素振りをこなし、まだ見ぬ卓球部に決別した僕は、入部届を書いた。部活の説明が簡潔にまとめられた紙には、練習は週7(一日自主練)、全日練習あり。ライトなどの設備が揃っているので、冬でも8時まで練習するらしい。勉強どうすんだ。


実力主義で、3年生でも下手なら容赦なく球拾いさせるらしい。退部や休部も簡単には認めてもらえないらしく、サボったら上級生がわざわざ教室まで笑顔で訳を聞きに来るらしい。中々ブラックな部活だ。一昔前の野球部でもここまで厳しくはないと思う。流石に髪の制限はないが。


本格的に部活に参加するのは入部届が受理されてからということで、1年生は解散となった。1年生は10人いるが、初心者は僕だけだ。他の9人は多分経験者だと思う。初心者であの上手さなら才能の差に嫌気が差してくる。僕は中瀬さん以外を知らず、彼女もまた僕以外しらないようなので成り行きで一緒に帰ることとなった。


良い話題が思いつかない僕は、せめて少しは会話をしようと質問した。

「中瀬さんはさ、なんでテニス部に入ろうと思ったの?」

「何かに打ち込みたかったからだよ。この学校、部活の多様さは魅力の一つだけどさ、その分一つの部活に集まる人が少なくて、緩い部活も多いじゃん。でも、ここは違う。ただ厳しいだけじゃなくて、ちゃんと強くなるための厳しさだと思う。なんでもいいけど、本気でやりきってみたいんだ」

彼女の言葉の裏に、少し陰りを感じた。明るさを取り繕うやうな目の奥から、隠しきれていない疲労の色が顔を出した。

「ほんとに、それだけ?」

「どういうこと?」

「上手く言えないけど…」

「もしかして、何か気にしてる?それなら、大丈夫だよ」

そう言って彼女は気丈に笑った。

「また明日ね。話を聞いてくれて、ありがと」

「僕が聞いたことだし…」

「ううん、君がテニス部に来てくれたから、私は話せたんだよ。多分だけどさ、テニス部に来るつもり、なかったでしょ」

「そんなこと…」

「ごめんね、私の勘違いかも。忘れて」

見抜かれて、いた。僕の不純な動機も見透かされていたのだろうか。

「君の目に、私はどう映ってる?」

意図の読めない質問だった。彼女はそれ以上言及することなく、歩き始めた。


去っていく彼女の背中には、不思議と寂しさが滲んでいたように見えた。だから、反射的に声をかけてしまった。

「また明日ね、中瀬さん!」

少し驚いたような彼女の表情に、先刻感じた陰りや寂しさは消えたかのように見えなくて。


「うん、また明日」

それらの存在が嘘のような…今まで見たことの無い、取り繕うのではなく、本当の気持ちを隠す仮面を被ったような笑顔がひどく印象的だった。


色々な感情を覗かせた彼女の目は、しかし最後まで笑うことがなかった。

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