3 地獄の席替え
担任の坪井先生が、
「席替えをすることにします」
と宣言した。皆すごい盛り上がりだった。気持ちはわかる。僕も、中学の時はテンションが上がっていたと思う。だけど、今の僕の気分は落ちて行くばかりだった。
坪井先生は生徒からの要望にも検討してくれる柔軟性の持ち主だが、彼の柔軟性がこんなところで裏目に出るとは思わなかった。結局僕は、たった2週間で中瀬さんの後ろに座る権利を手放すこととなった。
後ろの列が根強い人気を持つ一方、多くの男子が中瀬さんの隣を狙っていた。かくいう僕もその内の一人だ。対して、女子の多くが狙うのは意外にもアリーナ席だった。聞こえてきた会話によると、
「坪井先生の御尊顔を近くで眺められるなんて、特等席だよねー」
「そうそう。しかも、近くで声も聞けるしね!」
と盛り上がっていた。なんでも、
「アリーナ席を狙う会」
とかいう変な会を立ち上げて、坪井先生に憧れる女子生徒が集まっているらしい。それのリーダー格で、中瀬さんに次ぐ人気を持つ古谷さんに好意を抱く男子共は
明らかにテンションが下がっていた。
不幸中の幸いだろうか、新たな席はくじで決められるようだ。このクラスは40人学級なので、前後左右どこかしらで接せるのは39分の4だなーと考えていると、中瀬さんがくじを引いた。最前列の右端だった…前と右が潰れた…
その後は僕の特等席が奪われることもなく、自分の番が回ってきた。まだまだくじは残っていて、目当ての番号を引くのは簡単ではない。黒板を見るに、僕が引くべき数字は9か27だ。くじの入った袋に手を入れる。適当に取り出し爆死する輩が多い中、僕はゆっくりと時間をかけて当たりを見定める。早く引けよ、という目線を感じるが気にしない。気にしてはいけない。まだ授業の残り時間たっぷりある。僕が何十秒か多く使ったところで支障をきたすことはないだろう。とはいえ、時間を奪っていることには変わらないため、少し罪悪感を覚える。
「……!」
これだ!僕は根拠のない自信とともにくじをスッと引いた。誰かが根拠のない自信は大切って言ってた。多分。
中瀬さんの隣にいける、という妙な確信があった。果たして、くじに書いてある番号は、9…かに思えた。しかし、よくみると上に線が引かれてある。…6だった。くじの前で一喜一憂する僕を順番を待つ人達が怪訝な目で見つめ、その目は早くどけと語ってくる。僕は悔しさやら恥ずかしさやらで顔が熱くなるのを自覚しつつ、いそいそと席に戻った。
9番は後ろの左隅だった。いつもなら大喜び間違いなし、しかも主人公席ときた。だが、今に限っては中瀬さんの対角線上のため一番遠い大外れの席に変貌したのだった。
しかし、ここで天才的な考えが僕の脳裏をよぎった。




