1 クラスメイト
どうやら入学式での席はあらかじめ男女別のクラス順に設定されていたらしく、僕はさっき隣に座っていた生徒の後ろをついて行った。
僕は4組だった。星陰高校には毎年400人の新入生が入ってきて、それが40人ずつ10クラスに分けられる。先生曰く、成績などは関係なく、男女比が平等になるように抽選したらしい。
教卓前の黒板に貼ってある座席表に目を通し、自分の机に向かう。席は真ん中。可もなく不可もない、普通の席だ。そういえば、中瀬さんは何組だろうか。このクラスかどうか確かめておけば良かったな。
そんな風に考え事をしながら席に着くと、急に周りが騒がしくなったことに気づく。興奮した様子の男子の野太い声が教室に響き、何事かと周りを見渡そうと顔を上げて、そして僕の前の席に座る中瀬さんの姿が目に映った。
中瀬さんは同じクラスどころか、前の席、そして同じ班だった。星陰高校は生徒感のコミュニケーションを大事にしているので、授業中など合法的に話せること間違いなしだ。こんな奇跡みたいなことが起こったのも、僕の名字が「野村」だったからだろう。自分の名字にここまで感謝する日が来るとは夢にも思わなかった。
しかし、素晴らしい幸運に恵まれた僕だが、残念ながらデメリットというものが存在する。それは、中瀬さんの周りにクラスメイトがたくさん集まってくることである。まだ自己紹介すらしていないのに。無論、中瀬さんの後ろに座れるメリットに比べれば霞むほど小さなことではあるが、それでも人と話すことを得意としない上に堂々とその輪に入って行けない僕にとっては些かきついことだった。
「皆さん、席についてください」
教室に入ってきたのは爽やかなイケメンだった。かなり若い。見たところ、20代前半くらいだろうか。茶という髪色は、教師という立場から鑑みるに地毛なのだろう。
「私は坪井唯斗といいます。英語を担当します。英語は、コミュニケーションを主体とする教科です。なので、私のことは好きに呼んでもらって構いませんし、授業中で無ければ気軽に話しかけてくれて構いません」
穏やかに笑って、坪井先生は話を締めくくった。主に女子から、割れんばかりの拍手が巻き起こる。クラスの男子よりも、先生の方がイケメンとは。なんとも男子が可哀想である。僕の想い人は予想通り坪井先生の甘いマスクにも全く揺らいでいないが、ほとんどの女子がうっとりとした目で坪井先生を見ている。中には赤面している人もいる。先生は慣れているのか、特に気にした素振りも見せない。僕は、基本的に女子は夢見がちだと考えている。坪井先生の存在がありで自分を異性として意識させる難易度の高さに、僕はまだ名も知らぬクラスメイトへの同情を禁じえなかった。でも、大半は中瀬さんを狙っているので関係ないかもしれないが。
さらに。クラスで顔を合わせてまだ一週間と経っていないのに、中瀬さんを中心とするグループができていた。彼女の持つカリスマ性が人を引き付けたか、それとも無駄に行動力の高い連中が集まったか。打算で動く人もいれば、あわよくばお近づきにと邪な思いを抱く人、純粋に中瀬さんの人柄に惹きつけられた人。そんな人達が休み時間の度中瀬さんの机に集まるのである。
後ろで話を聞いていて思ったことだが、中瀬さんは高嶺の花だ。親しみやすい笑顔を向けて、親しげに話しているが、その実心からの表情や言葉が一つもないように感じられた。一度それを感じてしまうと、どんな手法をとったって届かない場所に咲いているように錯覚してしまう。声がよく聞こえる近さにいるのに、遥か彼方にいるようだ。親しげに笑みを向けられ、もしかしたら、と期待を抱く気持ちはわかるが、客観的に見てみるとどこか疲れたような目をしていた。それが沢山の人を相手する疲れなのか、それとも他のものか僕にはわからないが。
でも、そんな目もまた惹き込まれるような引力を有していた。それは直視した状態で抗えるようなものではなく、僕は無意識に目を逸らした。




