プロローグ
切っ掛けは些細だった。
その日は高校の入学式だった。僕は中学時代の努力の甲斐もあり、県内トップレベルの進学校、星陰高校に入学できた。僕は最初、勉強第一で頑張るつもりだった。誰もが知る有名大学に入るため努力するつもりだった。でも、
「新入生代表からの答辞です。中瀬さん、お願いします。」
新入生代表として挨拶をするために登場した彼女ーー中瀬さんの堂々たる姿勢に僕は目を奪われた。周りが息を呑むのがわかった。彼女の登場で物音一つ聞こえなくなった。それほど、人を引き付ける魅力を持っている人だった。
目が合ったような気がするが、彼女はスピーチする際周りを見ていたので、偶々だろう。認識すらされていない。当たり前だ。何百人といる聴衆の中で僕を見るはずがない。だけど、僕は見惚れてしまった。どこか余所行な、仮面めいた笑顔だったのに。ただ淡々と言葉を紡ぐ彼女の透き通るような声に、思わず聞き入ってしまった。整っている、では足りないような、彼女の美貌に見合う言葉がどれだけ探しったて見つからないような、最早説明のいらない美しさと。何よりすべてを見透かすとさえ錯覚させる美しく澄んだ漆黒の瞳に目を奪われた。
壇上を降り、自分の席へと戻っていく彼女の長く、艷やかなで鮮やかな黒髪が靡く。気づけば僕は呼吸するのも忘れて、瞬きもせずに目で彼女を追っていた。
「中瀬さん、ありがとうございました。続いて、在校生代表、生徒会長の平本さん、おねがいします」
司会の言葉でようやく我に返り、慌てて前を向き、姿勢を正す。だが、目線を感じる。悪目立ちしたかもしれない。でも、そんなことがどうでもいいとさえ感じるほど、僕は強く抱いた感情を制御できなかった。心臓が煩い。先の彼女の言葉が鼓膜に、そして脳裏に焼き付く。
彼女は僕を認識していない。けど、そんなことは関係なかった。だって、これからいくらでも話す機会なんてあるはずだから。生徒会長が何か喋っているが、僕の頭の中は彼女のことで溢れていた。
校長の話も気づけば終わっていて、いつの間にか新入生は退場する時間になっていた。
惚れやすい性格ではないはずだ。面食いでもなかった。でも、彼女はその僕の価値観をひっくり返してしまった。先程の心臓の高まり。そして、退場する彼女を見かけて慌ただしく体内を回る血流が自分の気持ちを言外に主張してくる。自分の気持ちに嘘はつけない。
その日僕は、恋をした。
R15要素はないです。多分。




