17 初めての友人
指定されたチェーン店は僕の家から中々遠かったこともあり、足取りが重かったが約束を破るわけにも行かない僕は疲労の溜まった体に鞭を打って、できるだけ早く歩いて向かった。
店は駅前にあるというのでその近辺に来たのだが、中々人が多い。普段は休日の10時とかした行くことがないので、こんなにも人で溢れているのはなんだか新鮮だった。
ただ、これだけ人が多いと店内も人で一杯で席が取れないのでは、と心配しながら入店したのだが、
「あっ、野村くん。こっちこっち〜!」
と大きく手を振りながら僕の名を呼ぶ古谷さんが見えて、僕の心配は杞憂に終わった。どうやら、早めに来て席を取ってくれてたみたいだ。
「こっちが呼びつけたんだし、私達この時間帯の人の多さ知ってたからねー。どうせ宿題会ったし、気にすること無いよ」
とは彼女の言だ。気にするな、と言われてもいつ来るか具体的な時間を伝えられなく、長時間待たせる可能性もあった僕としてはどうしても申し訳なさを感じてしまう。
「それにしても、たまたま入口見ててよかったねー、晴翔」
「そうだな。この込み具合なら優が俺等を見つけるのに相当時間がかかったかも知れない」
「確かに、ありがとう」
「お礼を言われるようなことじゃないよ。それで、早速だけど本題に入らせてもらってもいいかな?」
注文していたハンバーガーが届いて、僕が受け取ったタイミングで古谷さんが本題を切り出してきた。
「えっと、僕に晴翔の友達になって欲しい、ってことだよね?」
その問いに対して、晴翔がなぜだか申し訳なさそうな顔で頷いた。
「でも、どうして僕なの?晴翔って、結構人気だったと思うんだけど」
「そうだねー、人気なのは間違ってないよ。でも、男女問わず人気があるんじゃなくて、女子だけに人気があるんだよね」
「あー…」
僕はなんとなく晴翔の置かれている状況を察した。そして、続く古谷さんの言葉は僕の推測を肯定するもので、
「皆、私と晴翔が付き合ってることはしってるんだけど…晴翔ってさ、なんていうか、顔が良いじゃん」
ストレートな物言いだが、そのとおりだと思う。
「しかも、多分本人としては無自覚なんだけど優しいんだよね。さり気なく、っていうかさー」
「あー、何となく分かるかも…」
「でしょ?だから、はっきりいうと、モテるんだよねえ。凄く」
どうやら晴翔は鈍感なようで、あまり僕達の会話についていけてなかったらしく、
「いい加減自覚してよ…普通、好きでもない男に積極的に話しかけに行かないって…」
と古谷さんに文句を言われていたが、
「…でも、僕は茉白しか見てないから。気づかなくても仕方ないでしょ」
と、平然と言ってのけ、古谷さんを赤面させていた。しかも、本人は当たり前のことをいっただけのつもりなのでたちが悪い。よく喋る古谷さんと、無口な印象の強い晴翔の二人は、正反対でカップルには見えなかったのだが、ここを見るとなるほどと納得せざるを得ない。
「んで、皆付き合ってる事は知ってるって言っても、あくまで噂だからね。私達が公言してないのをいいことに付き合ってない、って解釈して晴翔にアタックする人がちらほらいるんだよ。晴翔はそんなのに釣られないってわかってるしアタックされるのはいいんだけど、問題は他の男子なんだよね。中瀬さんを除いてほとんどの女子が晴翔に好意を抱いちゃってて、彼女持ちが女子の人気を独占してるって状況もプラスして嫉妬が凄いことになってるの」
「なるほど。でも、二人が付き合ってることを公言すれば、女子も晴翔にアタックしなくなるんじゃないの?」
「元々、公言するつもりだったんだよね。でも、噂がかなり広まってたしいいかな、って放置しちゃってたんだよねぇ…」
「じゃあ、二人が悪いのでは…?」
「そんなことないよ。だって、女子ってのは相手が彼女持ちでもダメ元でアタックすることが多いから。勿論、あからさまなことはしないけどね」
「だから結局男子に嫉妬されると」
「そう。高校生の男子、っていうか女子もだけど、ほとんどの人が恋人を欲しがってるんだよねー。好きな人がいるっていうよりただただ恋人が欲しいってだけだと思うけど。それでも、晴翔の女子人気だと仲を深めるのも一苦労だし、何より異性として見てもらえないの。実際私は、晴翔が彼氏じゃなかったとしても他の男子を異性として見れない。それだけ、晴翔が圧倒的なんだよねぇ」
若干惚気が混じっていた気がしなくもないが、美形特有の悩みということだろうか。
「その点君は晴翔に嫉妬してなさそうっていうか、興味すらなさそうだったし」
「確かに、嫉妬してないけど」
「だからね、君なら晴翔と仲良くなれる。友達になれるになれると思うんだ」
終始無言だった晴翔も、
「俺からも頼む。最初は友達がいなくても、茉白さえいればいいと思っていた。でも、茉白には茉白の付き合いがあって、ずっと俺といるわけには行かない。それに、皆が楽しそうに談笑しているのに、俺は女子に囲まれて聞きたくもない話を聞くのに嫌気が差してきた。俺は、高校生活をもっと楽しみたい」
そう、普段無表情な顔に必死さを覗かせて、
「だから、俺と友だちになってくれにないか…!」
僕に頭を下げた。
「頭を上げてよ。僕は嫌なんてちっとも思ってないよ」
「本当か…?」
「本当だよ」
そう言って、晴翔の揺らいでいる瞳をまっすぐ見つめて、手を握り、
「ほら、友達の証の握手」
と、言った。
「…ありがとう。良かった、優に話して。俺、怖かったんだよ。優も、俺に嫉妬をぶつけてくるんじゃないかって。だから、茉白が優を説得しくれてるときも一言も喋れなかった」
彼には彼なりの恐怖があったようで、でもそれから解放されたような、爽やかな笑みを見せた。その威力は、古谷さんをあまりのかっこよさにダウンするだけにとどまらず、回りの視線をも釘付けにするほどだった。
当の本人は、自分が視線を独占している事に気づいた様子もなく、
「茉白、顔が赤いぞ。体調でも悪いのか?」
と、以外な鈍感さをこれでもかと見せつけるのだった。
古谷さんは先程の衝撃がいまだ抜けないのか真っ赤な顔のまま、
「晴翔さぁ、自分の笑顔の破壊力に気づいてよ!」
と、あまりに鈍感で無自覚な晴翔にこの場全員の気持ちを代弁した。




