12 中瀬さんの過去 中
私には親友がいた。その親友ーー真奈とは、ある出来事をきっかけに、それまでの中の良さが嘘のように疎遠になってしまった。その出来事が、私が私の過去を打ち明けたことだ。
「ねえ、真奈」
「どしたの」
その頃私は、自分で決めたことにも関わらず「完璧」であり続けることに辛さを感じていた。とはいえ、両親やお姉ちゃんに打ち明ける訳にはいかない。だから、親友の真奈に打ち明けて少しでも楽になろうと思った。真奈なら受け入れてくれると考えていた。否、信じていた。疑っていなかった。
真奈への信頼と日々の辛さで、私のストッパーは完全に機能を停止し、どんなことがあっても打ち明けることのなかった私の秘密はいとも簡単に口からこぼれ出た。
「私ね、打算で『完璧な優等生』を演じているの」
慰めてほしかった、とは言わない。相槌を打って、ただ私の話を黙って聞いてくれるだけでよかった。それだけで私は救われたと思う。でも、
「何…それ。なんかの冗談だよね…?」
「えっ…」
「だって、だってさ!完璧であり続けるなんて辛いこと、打算みたいな安い感情で出来る訳無い!」
「安い感情って…」
「だってそうでしょ。私も、一度憧れてやってみたからわかるの。あれは生半可な思いでできることじゃない!人に気に入られたいとか、認めてもらいたいとか、そんな半端な、人任せで人に左右されるような気持ちじゃ無理なの…無理に決まってるの…!だって私には無理だった。親に認めてもらおうと、そんな安っぽい動機では到底届かないものだった…!」
その時初めて、真奈もまた親に認めてもらえず、認めてもらいたいことを理解した。真奈は、自分が諦めたことを自分と同じような状況でなし得た私を認めたくないのかもしれない。そう気づけたのはいいが、遅かった。
「あなたもほんとは天才側の人間なんでしょ!?皆が必死になって時間をかけてようやくできるようになることを短時間で、小さな努力でできるようになって!だからなんでもできて、完璧なんでしょ!?努力でできるようになることなんて限られてるんだから…自分の使える時間を全部捧げたって、『完璧』な理想の自分には1割だって近づけないんだよ…」
本当はもっとじっくり話すべきだったと思う。でも、私の努力を否定された気がして、
「私だって、天才側じゃない!勉強も、運動も、私が今できることは全部、私の努力によるものだよ!」
強く言い返してしまった。思えば、ここで私達の友情には修復不可能なヒビが入ったように思えた。
「じゃあ、なんであなたはできて私はできないの!?」
それは、悲痛の叫びだった。
「それは…」
この時私は、何か言うべきだった。言葉に詰まるのは、最悪手だったと思う。でも、言葉が出てこなかった。
「ほら、わからないでしょ…私とあなたは違うもんね!もしかしたら努力してたかもしれない。それがほんとか嘘かは私にはわからない。でも、天才なら努力による伸びも違うんだよ…!自分がどれだけ努力しても伸びなくて、ああ、私は凡才側なんだ、って思い知らされたことはあるの?ないでしょ!あったら『完璧』でなんかいられないもんね……!」
「そんなこと…」
ない、と否定しかけて、思えばお姉ちゃんの天才さに打ちのめされたことはあっても自分は凡才側だと自覚したことが一度たりとも無かったことに気づき、言葉を最後まで紡げず、
「否定もしてくれないんだ…」
と、消えてしまいそうなほど小さく、弱々しい呟きを残して、走って行ってしまった。
私は真奈にかけるべき言葉を見つけることができず、追いかけようにも拒絶されるかもしれない恐怖から足が動かず、結局追いかけることさえできなかった。後で謝って、仲直りしようと決意するも、真奈は早退してしまってその日は会うことが叶わなかった。
それ以降、真奈は私を避けるようになり、話しかけても無視されるようになった。私は素を出せる相手を失ったことで段々余裕がなくなり、自分のことが精一杯で他のことに手が回らなくなった。今まで積極的助けていたクラスメイトを自分の都合で言い訳して無視するなんてどこが「完璧」なのかと思ったが、それでも真奈の態度は変わらず一貫して私を避けた。
結局、話す機会を得られない儘卒業の日を迎えてしまった。




