10 難関ミッション
「急に倒れたって聞いて心配したんだよ。中瀬さん、だっけ?連絡してもらったし、暫くの間休ませてもらったし、お礼したいから呼んできてくれる?」
それは当然のことだったが、先程のこともあって顔を合わせたく無かった僕は、
「中瀬さんさ、もう疲れて寝るって言ってたから、迷惑になるかもしれないしさ。僕が明日直接伝えとくよ」
「そう?それでも、感謝の意は伝えておくこと」
そう言われて初めて、僕は彼女の連絡先を知らないことに気づいた。
「あの、母さん」
「…もしかして、連絡先交換してないの?」
「うん…」
「てっきり凄く仲のいい子かと思ったけど」
「部活が同じだけだよ。まだ、仲が良いとは…」
「またこういう事があるかもしれないんだし、私からもお礼を言わないとだし、連絡先交換しといてね」
「…はい」
了承こそしたが、それが難易度の高いことであることは言うまでもない。そもそも、まだ放課後しか話しかけられないのだ。限られた時間で、如何に連絡先を聞き出すか、僕は夜な夜な考えることとなった。
いつの間にか体の不調は綺麗に消えていた。
「やべっ…」
鳴り響くアラームにも気づかず流れた時間は、朝の余裕を完全に消し飛ばした。碌な妙案も思いつかず、ただ夜遅くまで延々と考え、遅刻しかけている。実にバカみたいな話だ。…案の一つも浮かばないのだから実際そうかもしれないが。
急いでリビングに降りると、テーブルに質素な朝ごはんと、
「要連絡先交換」
と赤字で書かれたメモが置いてあった。なんとも面倒な話だ。僕が簡単に連絡先を聞き出せる人間に見えるのだろうか。もう少し僕の身になって考えて欲しい。
母さんには悪いが、朝食は食べなかった。きっと僕の方が早く帰ってくるだろうし、後で食べればいい。
でも、朝食を抜く危険性は十分理解しているつもりだ。昨日見たく倒れたくはない。だから、僕は余裕のない時間を使ってでもおにぎりを作り、食べながら学校へ向かうことにした。
「………連絡先のことは未来の自分がなんとかしてくれる!」…はず。
歩いてる最中も止まらない思考にそう結論付けることにした。しかし、未来の無策の僕を信じられるだろうか。
「僕、全然自分のこと信じれてないなあ…」
自己肯定感の低さも課題の一つとしつつ、僕は遅刻回避を最優先事項として走り出した。




