研究所の日常とドタバタ
朝。
kawaii研究所の廊下には、いつもと同じように警告音が鳴っていた。
「警告:萌え指数が基準値を超えています」
「またか……」
白衣姿の桃瀬りくは、ため息をひとつつく。
その横を、白石ももかが全力で走っていった。
「すみませーん! それ私ですかー!?」
「君以外に誰がいる」
「私そんなに萌え生産機じゃないです!!」
研究所に来て三日目。
ももかはすでに“日常トラブルの中心人物”になっていた。
「ぴよぴよぴよ!! 萌え反応異常!!」
廊下の端から、丸いロボットが跳ねてくる。
研究所マスコット兼分析補助AI、ピヨ助だ。
「またそれ!? なんで毎回私なの!?」
ももかが叫ぶと、ピヨ助は高速回転しながら答える。
「原因:白石ももかの笑顔が規格外」
「規格外ってなに!?」
りくが淡々と横から補足する。
「つまり、計測不能という意味だ」
「それ説明になってないです!」
その瞬間、ピヨ助が廊下の端にぶつかり──
ドンッ。
小さな爆発音。
煙。
「また壊れた……」
りくは無表情のままメモを取る。
『第3世代ピヨ助、3日で破損』
桜井教授は、なぜか朝からテンションが高い。
「今日は重要な日だ! “日常恋愛反応観察実験”を行う!」
「つまり何するんですか」
ももかが即答する。
教授はキラキラした目で言う。
「ただの共同作業だ!」
「一番嫌なやつですそれ」
ももか・りく・ゆうたの三人で資料整理をすることになる。
大量の紙束。
「これ分類しろって……地味に多くないですか」
ももかが山を見てうんざりする。
ゆうたは笑っている。
「こういうの得意だよ、俺」
りくは無言で作業開始。
ももかも仕方なく手を動かす。
しかし──
「これ“萌え反応A”って書いてあるけど何ですか?」
「触るな」
りくの声が即座に飛ぶ。
「えっ」
「それは実験データだ」
「いやでもただの紙じゃないですか」
次の瞬間。
紙が光る。
「え」
爆発。
「ぎゃああああああ!!」
ももか、顔真っ黒。
りくはため息。
「触るなと言った」
「先に言ってください!!」
ゆうたは笑っている。
「この研究所、日常が危険だね」
教授が満足そうに言う。
「次は“恋愛距離測定”だ!」
「まだやるんですかその系統」
りくとゆうたが同時にため息をつく。
テーブルに三人が座らされる。
距離:50cm。
「まずは通常会話をしろ!」
ももかは不満顔。
「普通ってなんですかここでの普通」
ゆうたが話しかける。
「ももか、最近慣れてきた?」
「慣れてません」
りくが横から一言。
「嘘だな」
「なんで断定!?」
ももかはむくれる。
その表情を見た瞬間──
ピヨ助の警告音。
「萌え指数上昇」
「またそれ!?!?」
ゆうたが何気なく言う。
「昔さ、ももかって転んで給食全部ひっくり返したよね」
「忘れてくださいそれ!」
ももかは真っ赤になる。
りくの視線が一瞬止まる。
「……」
ゆうたは笑っているだけ。
その“自然さ”が、妙に場を揺らす。
教授は小声で興奮している。
「無自覚幼馴染属性……強い……」
「何を分析してるんですか!!」
作業終了後。
りくは一人でモニターを見ていた。
『白石ももか:接触反応・会話反応・未知領域増加』
「……」
いつも通り無表情。
なのに、ほんのわずかだけ指が止まる。
「データが……揺れている」
そのとき後ろから声。
「なに見てるんですか?」
ももかだ。
りくはすぐ画面を閉じる。
「何でもない」
「え、怪しい」
「気のせいだ」
「絶対見られたくないやつですよねそれ」
「違う」
即答。
しかしその速さが逆に怪しい。
ももかはじっと見つめる。
「先輩って、たまに変ですよね」
「君ほどではない」
「またそれ!!」
その夜。
研究所のデータ室。
教授がモニターを見ながら笑う。
「ふふふ……順調だ」
画面には三つの波形。
・ももか:不安定に上昇
・りく:微細な揺らぎ
・ゆうた:安定(しかし影響範囲大)
「恋愛実験は……まだ始まったばかりだ」
その背後でピヨ助が小さく言う。
「警告:未知感情領域、拡大中」
⸻
ももかは寮のベッドで寝転びながら考えていた。
(なんかここ、変だけど……)
(でも、ちょっとだけ、嫌じゃないかも)
窓の外。
研究所の明かりがゆらゆらと揺れている。
その光の中で、誰かの視線だけが静かに交差していた。




