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kawaii研究所♡ラブ実験室  作者: 櫻木サヱ
感情は観測できない領域へ

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観測者の揺らぎ

研究所の空気は、もはや「慣れ」でごまかせる段階を越えていた。


白石ももかは廊下を歩きながら、天井を一瞬見上げてから小さくつぶやく。


「ここ、ほんとに現実なのかな」


返事はない。


でもその問い自体が、すでにこの場所では普通になりつつあった。


研究室に入ると、桃瀬りくはすでに端末の前に立っている。


「起床確認。正常」


「正常って言葉、もう逆に不安になるんですけど」


りくは視線を動かさないまま言う。


「今日は観測者干渉テストだ」


「誰が誰に干渉するんですかそれ」


そこへ桜井教授が現れる。


「今日はね!ついに“観測者もデータになる”段階だ!」


「それやばいやつじゃないですか」


ゆうたが後ろから入ってくる。


「おはよー、今日はちょっと空気重いね」


「いつもより軽い日ないんですか」


ももかは即答する。


研究室の中央には、以前よりも簡素に見える装置が置かれていた。


ただしその分、空間全体に違和感が広がっている。


「これ何ですか」


ももかが指さす。


りくは淡々と答える。


「観測反転装置」


「名前からしてもう意味わからないです」


ももかは椅子に座らされる。


今回はいつもと違い、りくも装置の範囲内に入る。


「今日は俺も対象だ」


ももかは少し驚く。


「え、りくさんも?」


りくは短く頷く。


「観測者も測定対象になる」


その言葉に、ももかは嫌な予感を強める。


ピヨ助が静かに起動する。


「観測反転開始」


空気が一瞬だけ薄くなるような感覚。


ももかは落ち着かない。


「これ、何が始まってるんですか」


誰もすぐには答えない。


ゆうたが軽く口を開く。


「ももかってさ」


「その流れやめてください」


即答。


ゆうたは少し笑う。


「いや、普通の話」


「普通もう存在してないです」


ゆうたは少しだけ視線を落とす。


「最近さ、りく先輩のこと気にしてるよね」


ももかは一瞬固まる。


「……してませんけど」


短く返すが、声が少し揺れる。


その瞬間、装置が反応する。


数値が動く。


りくの視線がわずかに変わる。


「観測干渉確認」


ももかは気づかない。


「だから何もしてないです!」


りくは静かに言う。


「していないことが干渉だ」


「意味わかりません!」


そのとき、りくがゆっくりと一歩近づく。


ももかは無意識に息を止める。


りくは何も言わず、端末のケーブルを調整する。


指先がほんの一瞬だけ触れる。


前よりも、少し長い。


その瞬間、ももかの中で“自分が見られている側”と“見ている側”の境界がぐらつく。


「……今の、何ですか」


りくはすぐに手を離す。


「補正」


「補正って何の!」


ピヨ助が反応する。


「観測者揺らぎ検出」


「もう全部怖い!」


ももかは頭を抱える。


ゆうたは少しだけ真面目な声になる。


「なんかさ」


ももかは警戒する。


「また変なこと言うやつだ」


ゆうたは軽く笑う。


「でもさ、今のってさ」


少し間を置く。


「りく先輩、ももか見てるよね」


その言葉に、ももかはすぐ反応できない。


りくは何も言わない。


ただモニターを見ている。


でも、その沈黙が答えのように感じられてしまう。


教授は静かに呟く。


「観測は、もう一方通行じゃない」


ももかはその意味を理解しきれないまま、ただ胸の奥がざわつく。


自分が「測られる側」だけじゃなくなっている気がした。


そして研究所は、その変化を止めないまま、静かに次へ進んでいく。

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