↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
kawaii研究所♡ラブ実験室  作者: 櫻木サヱ
感情は観測できない領域へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/18

測られる側の世界

研究所の朝は、もう「いつも通り」という言葉が通用しなくなっていた。


白石ももかは仮眠ポッドから起き上がりながら、軽く頭を押さえる。


「なんか最近、寝ても疲れ取れないんだけど」


その原因が生活なのか、この場所なのか、もう区別がつかない。


廊下に出ると、桃瀬りくがすでに立っていた。


「起床確認。正常」


「正常って言われると逆に警戒するようになってきたんですけど」


りくは視線を動かさないまま言う。


「今日は再観測テストだ」


「まだ続くんですかこれ」


そこへ桜井教授が軽い足取りで入ってくる。


「今日はね!ついに“データの主体入れ替え”だ!」


「もう意味わかんないです」


ゆうたが後ろから現れる。


「おはよー、今日はなんか空気ちょっと違うね」


「その感想が一番怖いです」


研究室に入ると、中央の装置はほとんどシンプルに見える状態になっていた。


逆にそれが不気味だった。


「これ、逆に何もないほうが怖いんですけど」


ももかが言う。


りくは淡々と答える。


「観測対象の切り替え準備だ」


「誰と誰を切り替えるんですか」


りくは一瞬だけ間を置く。


「観測者と被観測者」


ももかは嫌な予感を強める。


椅子に座らされる。


今回はいつもと違い、りくも中央にいる。


向かい合う形ではなく、同じ空間にいるだけ。


距離は近い。


ピヨ助が静かに起動する。


「主体切替観測開始」


ももかは落ち着かない。


「これ、何が変わるんですか」


誰もすぐに答えない。


ゆうたが軽く口を開く。


「ももかってさ」


「その流れやめてください」


即答。


ゆうたは少し笑う。


「いや、普通の話」


「普通もう存在しません」


ゆうたは少しだけ視線を上げる。


「最近さ、りく先輩といるとき、変な感じしない?」


ももかは一瞬止まる。


「……しませんけど」


短く返すが、声が少し遅れる。


その瞬間、装置が反応する。


数値が動く。


りくの視線がわずかに変わる。


「主体揺らぎ確認」


ももかは気づかない。


「何もしてないです!」


りくは静かに言う。


「何もしていない状態が変化だ」


「もう意味わかりません!」


そのとき、りくがほんの少しだけ視線をももかに向ける。


観測している側の目ではなく、見られている側の目に近い視線だった。


ももかは一瞬だけ息を止める。


「……今の、なんですか」


りくはすぐには答えない。


数秒後、短く言う。


「確認だ」


「何の確認ですか」


ピヨ助が反応する。


「観測主体変動検出」


「もうやめてその言い方!」


ももかは頭を抱える。


ゆうたは少しだけ静かになる。


「なんかさ」


ももかは警戒する。


「また変なやつ来るやつ」


ゆうたは少しだけ笑う。


「でもさ、今のってさ」


視線をりくに向ける。


「りく先輩、ももか見てるっていうより、見られてる側になってない?」


その言葉に、空気が一瞬止まる。


りくは何も言わない。


ただモニターを見ている。


しかしその沈黙が、否定ではなく“記録”のように感じられる。


教授は静かに言う。


「もう境界は意味を持たないね」


ももかはその言葉の意味を理解できないまま、胸の奥だけがざわつく。


自分が「測られる存在」だったはずなのに、今は誰が測っているのかすら曖昧になっていく。


りくは静かに言う。


「データは正常に変化している」


「どこがですか」


ももかの声は少しだけ弱かった。


それでも研究所は止まらない。


“観測する側”と“される側”の境界を溶かしたまま、次の段階へ進んでいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。