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kawaii研究所♡ラブ実験室  作者: 櫻木サヱ
恋愛実験は、暴走する

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13/18

境界線のゆらぎ

研究所の朝は、もう「普通」という言葉からかなり遠い場所にあった。


それでも外見上は静かで、白い廊下も、無機質な扉も、昨日と変わらない。


白石ももかはその“変わらなさ”が逆に不気味で、歩きながら小さく息を吐く。


「変わってないのに、変わってる感じするのほんと嫌なんだけど」


自分の声だけが少し浮いて聞こえる。


研究室に入ると、桃瀬りくはすでにモニター前に立っていた。


「起床確認。問題なし」


「その問題なし、全然信用できないんですけど」


りくは視線を動かさずに言う。


「今日は境界測定だ」


「境界って何と何のですか」


そこへ桜井教授が軽い足取りで現れる。


「今日は重要だよ!感情の“限界ライン”を見る!」


「それもう危ないやつじゃないですか」


「科学だ!」


ももかはもう抵抗する気力も薄れている。


ゆうたが後ろから入ってくる。


「おはよー、今日はちょっと重そうだね」


「軽い日が存在しないんですけどここ」


研究室の中央には、円形に配置された装置が置かれていた。


ももかはそれを見て嫌な予感を強める。


「これ何ですか」


りくは淡々と答える。


「感情境界測定装置」


「また名前が怖い」


ももかは中央の椅子に座らされる。


その周囲を、りくとゆうたが囲むように位置取る。


「これ何するんですか」


「何もしない」


りくは即答する。


「それ一番やばいやつです」


ピヨ助が小さく起動する。


「境界測定開始」


静かな時間が流れる。


しかし今回は、空気が少し違う。


誰も積極的に何かをしないのに、張り詰めている。


ももかは落ち着かない。


「これ、ほんとに意味あるんですか」


ゆうたが軽く口を開く。


「ももかってさ」


「その流れやめてください」


即答するももか。


ゆうたは笑う。


「いや普通の話だって」


「普通がもうここに存在しないんです」


ゆうたは少しだけ視線を上げる。


「昔さ、誰かに頼るの嫌いだったよね」


ももかは一瞬止まる。


「……別に」


短く答えるが、その声は少しだけ弱い。


りくのモニターが反応する。


教授が小さく笑う。


「いいね」


ももかは気づかない。


「なんでそういう話するんですか」


ゆうたは少しだけ真面目な声になる。


「今どうなのかなって思ってさ」


ももかは少しむっとする。


「普通です」


その瞬間、りくが静かに立ち上がる。


「境界線を調整する」


「え?」


りくが装置に触れる。


わずかに光が変わる。


空気が少しだけ重くなる。


ももかは違和感を感じる。


「今何したんですか」


りくは短く答える。


「閾値を下げた」


「専門用語やめてください」


ピヨ助が反応する。


「感情境界変動」


「もうやだこの流れ!」


ももかは頭を抱える。


ゆうたは少し笑う。


「なんかさ、ほんと中心だねももか」


「中心じゃないです!」


ももかは即答する。


しかし誰も否定しない。


ただ数値だけが静かに動いている。


りくはモニターを見ながら言う。


「変化は安定している」


「どこがですか」


ももかは疲れた声になる。


そのとき、ほんの一瞬だけ空気が揺れる。


誰も何もしていないのに、距離が近く感じる。


視線が重なる。


言葉が少し遅れる。


その違和感を最初に口にしたのは教授だった。


「境界が、薄くなってきたね」


誰にも詳しくは説明されないまま、その日の実験は続いていく。


ももかは椅子に座ったまま、小さくつぶやく。


「普通って、どこ行ったんだろ」


返事はない。


でも研究所は、確実にその“境界”を曖昧にし始めていた。

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