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kawaii研究所♡ラブ実験室  作者: 櫻木サヱ
恋愛実験は、暴走する

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12/18

ずれていく日常

研究所の朝は、相変わらず静かに始まる。


ただその静けさは、もう安心ではなく「準備が整っている状態」に近いものになっていた。


白石ももかは廊下を歩きながら、軽く伸びをする。


「なんか最近、朝起きても安心できないのが普通になってきてるんだけど」


自分で言っていて、少し嫌になる。


扉の先では、桃瀬りくがすでに端末を見ていた。


「起床確認。問題なし」


「その問題なしって逆に問題なんですけど」


りくは視線を動かさないまま続ける。


「今日は長時間接触テストだ」


「また嫌な響きのやつ来た」


そこへ桜井教授が入ってくる。


「今日は重要だよ!感情の“持続”を見る実験だ!」


「持続って何を持続させるんですか」


「ときめきだ!」


「帰ります」


ももかは即答するが、もちろん通らない。


ゆうたが後ろから現れる。


「おはよー、今日は長いの?」


「長いです」


「やだねそれ」


「私もです」


研究室に入ると、いつもより広く感じる空間に二つの椅子が置かれている。


さらに、椅子同士をつなぐように細いケーブルが床を這っている。


「これ何ですか」


ももかが指さす。


りくは淡々と答える。


「接触持続測定装置」


「名前からしてもう嫌です」


ももかは座らされる。


対面には当然りく。


距離は近い。


「また近いんですけど」


「基準値だ」


「その基準誰が決めたんですか」


りくは答えない。


ただ静かに見ている。


沈黙が続く。


ももかは落ち着かない。


「これ、何分やるんですか」


「未定だ」


「未定って一番怖いんですけど」


ピヨ助が小さく反応する。


「接触テスト開始」


ももかはため息をつく。


しばらく何も起きない時間が続く。


ただ座っているだけ。


しかし、沈黙が長くなるほど逆に意識してしまう。


りくの視線。


空気。


距離。


全部が少しずつ気になる。


ももかは小さくつぶやく。


「これ、拷問じゃないですか」


ゆうたが横から口を開く。


「ももかってさ」


「その流れやめてください」


即座に遮る。


ゆうたは笑う。


「いや普通の話」


「普通の話って今ここにないです」


ゆうたは軽く肩をすくめる。


「昔さ、誰かと並んで歩くの嫌いだったよね」


ももかは一瞬止まる。


「……別に」


短く返す。


でも少しだけ視線を逸らす。


その変化にりくのモニターが反応する。


教授が小さく頷く。


「なるほどね」


ももかは気づかない。


「なんでそういう話ばっかするんですか」


ゆうたは少しだけ柔らかく笑う。


「今はどうなのかなって思ってさ」


ももかはむっとする。


「普通ですってば」


その瞬間、りくが静かに立ち上がる。


「測定条件を変更する」


「え?」


りくが椅子を少しだけ動かす。


距離がさらに近くなる。


ほんの少し。


それだけでセンサーが反応する。


数値が上がる。


ももかは驚く。


「今の意味あるんですか」


りくは短く答える。


「ある」


少し間を置いて続ける。


「反応が出ている」


「それが何なんですか!」


ピヨ助が反応する。


「感情持続値上昇」


「もうやだこれ!」


ももかは頭を抱える。


ゆうたは楽しそうに見ている。


「なんかさ、もう全部ももか中心だね」


「中心になってません!」


ももかは即答する。


しかし誰も否定しない。


ただデータだけが増えていく。


教授は静かに呟く。


「距離と時間は、感情を作る」


その言葉の意味は、まだ誰にも正確には届いていない。


りくはモニターを見たまま、小さく言う。


「安定している」


「どこがですか」


ももかの声は少し疲れていた。


それでも研究所は止まらない。


少しずつ、確実に、何かが変わっていくまま進んでいた。

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