本試験
side イグワーカン
はっはっ
走っていた。
何も考えずにただ我武者羅に。
それは何の変哲もないある日のこと。
あるギルドから届いた手紙であった。
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突然のお手紙にご容赦下さい。
私は冒険者ギルド受付ギルド嬢をしているものです。
本日、ギルド登録に訪れた者がとても強く、本登録試験を行える者がおりません。
そして本人は職業を魔法剣士と言いました。
その者は竜人族のアルフ= ラーレ(Alfu = Rale)という男です。
私供の手に負える範囲を超えております。
どうか、本登録試験の試験官をして頂けないでしょうか。
冒険者ギルド
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...どういうことですか。
アルフ= ラーレという名前で竜人族なんてあの男、アルフレード = コラーレスしか考えられないでしょう?
名前はお得意の魔法で偽装しているのでしょう。
魔法剣士?そう言えばあの人、一応魔法剣士を名乗っていましたね。
ユーレシアさんに笑われていましたけど。
とても魔法剣士に見えなくて。
みんな騙されたものです。あの外見でしたしね。
でも、実際はとても強くて...。
私が負けたのなんて、後にも先にも父上とあの人だけだったんですから!
それにしてもバレバレな偽名を使う人ですね。
ははっ。
あははっ。
やっとあの人が帰ってきた。
これで私もユーレシアさんも救われる。
あともう少し。
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side アルフ
「では、本登録試験を始める。俺はこの試験官を務めるジャックだ。一応Bランク。よろしくな。」
髭面のいかにも冒険者という男が立っている。
歳はヒューマンであれば20程であろうか。
右目の下の獣かなにかに引っ掻かれたかのような傷があるほか、腕などに多々傷が見える。
冒険者になって長いのであろう。
...Bランクか。
どれくらい手加減すればいいものか。
あんまり目立ちたくはないんだが。
「はい。よろしくお願いします。」
「この試験はある程度の武力を測るものだからな。そう固くなる必要は無い。では、始めるか。そこのギルド嬢の指示でな。」
別に緊張しているわけではないんだがな。
いや、緊急してると勘違いしてくれるのは好都合か?誤魔化し安い。
「武器はそこから選んでくれ。」
そこには、一見同じに見える剣が数本並んでいる。しかしそれは外見だけである。
まだまだ鍛冶に親しんでいない新人が初めて完成させたもの。
鉱物に詳しいドワーフが何年もかけて打ったもの。
ダンジョンで発見されたもの。
言葉だけで見ればすぐに区別できそうだが、これがなかなか難しい。
既に試験は始まっているのだ。
ふむ。一応魔法剣士と名乗っているわけだから、剣をとるべきか。
この剣かな。
-ピコン
ん?何の直感だ?
「では、私の合図で始めさせていただきます。」
いや、今は試験だな。
ふう...。
風が流れる。
ああ気持ちいいな。
「始め!」
カキン!
何度も2人の剣が撃ち合う。
金属同士がぶつかる音が高く響く。
剣を交わし続け、ある時、2人の力が拮抗しせめぎ合うことになった。
先に動いたのはジャック。
アルフの服へと手を伸ばした。
絶妙なタイミングであり、たいていのものは防げない。
しかしアルフには通じなかった。
剣を弾き、その手を躱す。
ジャックを見返し、''フッ''っと笑った。
「よく防いだな、お前!大体のやつはこれにまんまと引っかかるんだが。」
いや、たいして避けるのが難しいものでもなかったしな。
しかしこれでBランクか。
「いえいえ、それほどでも。」
「謙遜かい!いいや、やめやめ。」
ん?やめ?
「お前合格。これからDな?」
D?これだけで?
「最初の一撃を受け止めた時点でDだ。Bランクの剣を真正面から受け止めれるやつなんてそうそういない。それにその後の判断もよかった。大体はあれに引っかかる。それで言うんだ。魔物は何をするか分からない。魔物に卑怯も糞もないんだってな。」
なるほど、そこまで冒険者のレベルは落ちたか。
「では、本登録試験合格おめでとうございます。では、貴方様は今日からDランクです。
登録をするので、仮登録のギルドカードを頂けますか?」
りょーかい。
「はいどうぞ。」
「はい、受け取りました。では、少々お待ちください。……。はい終了です。これで利用ができます。」
相変わらず早いな。
「ありがとうございました。」
「おうっ。またな。」
「はい、また御用がありましたら。」
よし、ギルドカードも手に入れたし、次はマップか?
店の方に行ってみるか。
確か、ギルドの2階だった気が...。
あった。
「すいませーん。」
「はーい。なにかご入用で?」
「はい。できるだけ広いマップと、細かいマップが欲しいのですが。」
「広いものと、細かいものですか。それでしたらこちらがおすすめです。範囲が大きくて、細かいものです。おにいさんがどこへ行きたいのかによりますが、国内でしたらこのマップに勝るものはないかと。」
うーん。
シアが眠っているのは国内なわけだし、これでいいか?
-ピコン
ん?強運が何か言ってる。
多分、もっと広い方かいいのかな。
うんそうみたいだ。
「じゃあそのマップと、他国のものもあればくださいな。」
「はい。同じ制度のものが各国ごとにありますが、どの国のものがご入用ですか?一応、このマップは高価なので、1枚銀貨2枚は頂かなくてはいけないのですが。」
この国の近くの国ってどこだっけ?
あんま、興味がなかったから全然わかんねー。
「ではとりあえず、この国に接している国の地図は下さい。」
「では、全部で5カ国分で小金貨1枚です。ギルドカードはお持ちですか?」
「これか?」
「はい。では、割引させていただいて、銀貨9枚です。」
へー。結構安くなるんだな。
店員の対応も良かったし、また利用するか。
「はい、確かに受け取りました。こちらが商品です。」
「また来るよ。」
「はい、ありがとうございました。」
いい買い物をしたな。
じゃあ、次は腹ごしらえか?
腹も減ったしな。
市にでもいくか。
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side ギルド嬢
「……。なあ、レイラ。」
「はい?」
「お前、あんなやつと俺が戦って大丈夫だと思ったのか?あいつには言わなかったが、剣の音からしても正解、しかもアミーンの森のダンジョン産の剣をを選んでいただろ。下手したら俺の剣の方が折れるかと思ったぞ。」
え、これ正直に答えていいの?
というか、いろいろと気がついていたのね。
そこに驚いたわ。
鈍いから試験官に選んだのに。
というか、剣について私に言われても困るのだけど。
だってギルド員である私もどれがなんなのか分からないのだもの。
あの男、剣を選ぶのに躊躇いもしなかったけれど、見分けるコツでもあるのかしら。
「正直ジャックさんが怪我するか、最悪死ぬかと思っていました。」
「え、そこまで?そう思ってて俺に試験官やらせたんだ...。」
あ、やっぱり気がついてなかったのね。
まあ、ヒューマンには難しいのかもしれないけれど。
危機管理能力が低いわよね。うさぎ族とは大違い。
あの男、怖いのよ!
それに私だって最初からジャックに試験官をやらせようと思っていなかったわけではないわ。
「本当はイグワーカン様に試験官をしてもらおうとお手紙を書いたのですけれど。」
結局、あの手紙届いたのしら?
本当に来てもらえるとも思っていなかったけれど、来てくれていたら...。
「イグワーカン様!?」
「はい。でも間に合いませんでしたね。」
でもこれで正解だったかも。
あの男を下手に強い相手と戦わせたら、何かに巻き込んでしまって、機嫌を損ねる心配があるものね。
ほんとに何なの、あの男は...。
「はあ、イグワーカン様を呼ばなくてはいけない相手、か。」
「今回の件は貴方で良かったと思っています。見事な終わり方でしたよ。」
ろくに戦わず終わらせた、その判断力に素直に賞賛を贈るわ。
これで下手に高ランクを与えずにすんだのだもの。
「ランクもDではあの方の実力には伴っていないでしょう。けれども、どのような人物か分かっていない状態でAやBにする訳には行きませんからね。今回はあなたの英断でした。ありがとうございます。」
ガタンっ!!!
「何!?」
「何だっ!?」
大きな音をたてて扉が開いた。
そこには、麗しい美青年が汗を垂らし、息を荒立てて立っていた。
「!イグワーカン様っ!」
え、イグワーカン様来ちゃったんですけど。
返信、来なかったのに。
「はぁっ、はぁっ。突然すみません。試験官に呼ばれたのですがそれで、その新しいギルド員はどこに?」
タイミング悪っ。
いい感じに終わる所だったのに。
「すいません、返信がなかったのでここに居るジャックに試験官をしてもらい、終わらせてしまいました。今は試験も終了し、どこへ行ったかまでは...。」
「そ、そうですか。それでどこに行きました?」
え、聞いてた?私、どこへ行ったかわかんないって言ったつもりだったんだけど。
「すいません、分かりません。あの方が何か?」
やっぱりあの男、何かしたわけ?
勝手に本試験したらマズかった?
「……。もう、言ってもいいのでしょうか?」
はぁ?何を言い出すのかしら。
これを聞いて、何かに巻き込まれると困るのだけど。
聞いてもいい事なの?
でもこの人、イグワーカン様ですもの。
もちろん私に拒否権はないのよねー。
「はい?何をでしょう?」
よしこい!
「その冒険者は、かのアルフレード = コラーレスである可能性があるのです。」
「え!!!」
まさかのそこっ!?
..................。
ていうか、ジャックどこ行ったの。
まさか、私を置いて逃げたわね!
今度あったらタダじゃ置かないんだから!




