市
小道を1本抜けると、市がある。
コトマンは大きくも小さくもない街であるので、市もそれなりだ。
しかしゲーム時代ではプレイヤーにとっての始まりの街であったことから、冒険者向けの店が多い。
ここの市も久しぶりだな。
俺が贔屓にしてた店はまだあるのか?
寿命が長い種族もいることだ。
あまり変わってない部分もあるだろうが、ヒューマンにとっては1000年は長すぎる時はず。
ヒューマンはたいてい、長くてもせいぜい100年程しか生きられない。
...魔力が強い者はその限りではないが。
魔力が強いものはその魔力に比例して寿命も伸びる。
プレイヤー以外に寿命に影響があるほど魔力があるやつはそう見たことがないがな。
獣人は何が混じっているかによるが、大体80年。
ドワーフは大抵が鉱山に住んでいて落石にあったり、酒の飲みすぎ、体の酷使で寿命まで生きない。だいたい300年程。
寿命いっぱいまで生き切って、500年か。
竜人は短くて7000年。
フェアリーは約5000年。
エルフは1万年以上。
純粋な竜や龍になると、未だに寿命で死んだものがおらず寿命は分からない。
確か、イグワーカンはハーフエルフだったはずだ。
師匠は普通のヒューマンだった。
とてもそうとは見えず、イグワーカンと一緒になって師匠に他種族の血が流れていないか調べたのが懐かしい。
結局は生粋のヒューマンだったが。
それに比べてイグワーカンはハーフと言ってもエルフの血が濃く出てしまってほぼエルフと変わらない。
師匠とは似ても似つかないから、師匠は死んでしまっていたとしても、イグワーカンはまだ生きてるのだろう。
シアは少し魔力が強いだけの人間だった。
あ、あれ美味そう。
肉の串焼き。何の肉だろう?
香ばしい匂いがする。
こんなにいい匂いで、匂いだけで実際は美味くないってことはないだろう。
「すいません、1本下さい。」
「おっ。あんちゃん美丈夫だねえ。家のカカアが惚れないか心配だよ。ほれ、1本。銅貨2枚だよ。」
「ありがとうございます。ハフハフッ。これ、美味しいですね。」
この世界に改めて来て、初めて笑った気がする。
食は人を笑顔にするって本当なんだな。
ほんとに美味い。
この旨さの原因はこのタレだな、絶品だ。
「あんがとよ!ほれ、もう1本どうだ?」
よっしゃ!今度は塩かな...
「いただきまs「きゃあああああぁぁ!」」
ん?なんだ?
俺の串焼き......
その時、俺のには世界が何もかもスローに見えた。
道の真ん中には女の子がいる。
何かを覚悟して目を閉じている。
道脇には焦って恐ろしい表情になってしまった母親っぽい女の人。
今にも悲鳴をあげそうな通行人。
全てが止まっている。
ただ1人俺だけがキョロキョロと動いているようだ。
それにしても何が起こっている?
……!そういうことか。
子供が馬車に轢かれそうなんだ。
この止まった世界なら余裕で間に合う。
目立ってはしまうが、今の俺はアルフなんだ。
人を助けるのは当たり前なんだ。
「大丈夫ですか?」
よし!間に合った。
周りも動き出したみたいだ。
それにしてもどうして止まっていたんだろうか。
「うわぁあああぁん。」
よしよし、泣け。
そんで、今度から気をつけろ。
今回、俺がここにいたのは偶然だ。
次回がないとも限らない。
備えて困ることは無いのたから。
あ、なんか慌てて来る女がいるな。
さっき道端にいた女だな。
さっきは気づかなかったが、明らかに周りとは一線を画した服を着ている。
「ありがとうございます。ありがとうございますっ。本当になんと申し上げればいいか。」
あ、やっぱり母親か。
目の前で娘が死ぬなんてことにならずにすんで良かったよ。
「お母さん、ですか?いいえ、出来ることをしたまでですよ。」
別に、助けられたから助けただけだ。
何か特別なことをした訳でもない。
感謝するなら俺以外の時が止まっていたことに対してだな。
それが無ければもしかしたら気づかなかったかもしれないし、間に合わなかったかもしれないし。
「はい。あの子の母でございます。貴方様がいなければあの子は死んでしまっていたでしょう。本当にありがとうございました。」
そこまで大切な娘なら、目を離すなよって思うのは俺だけか?
まあいいか。所詮は他人だ。
「では、お礼の言葉だけ受け取っておきますね。ところであの馬車に覚えは?」
あれだけ暴走させといて状況確認のために馬車から降りもせず、そのまま行くとは...。
どう考えてもこの騒ぎに気がついていないわけがないんだが。
「!あれは、ここの領主であるプギー・ドンバース子爵の馬車です。私ったら恩人を危険に合わせるつもりかしら!一刻も早くここから立ち去らなければ。」
「どういうことです?」
あ、はい。
やっぱり面倒な貴族か。
「このままここに居ては、馬車を横切った愚か者として殺されてしまうか、女は慰みものになってしまいます。」
うわ、俺の1番嫌いなタイプ。
やっぱりいるんだな、そういう輩はどこにでも。
今回はわざわざ自分から絡みに行くのも馬鹿らしいし、早く逃げよっと。
逃げるが勝ちとも言うしな。
「ご忠告、感謝致します。では、これで私は。」
「あ、待ってください。これを。」
ペンダント...か?
何か石がついているな。
魔石か?
「これは?」
「急いで離れなきゃと言ったのは私なのに引き止めてごめんなさい。私はエントラーナ商会の会長夫人のリジー・サイカ・エントラーナです。これは私からのほんの気持ちですわ。」
エントラーナか。
ゲーム時代もそんな一族がいたな。
そうか、プレイヤーがいなくなってから大成したか。
俺はケーキ屋のSaikaくらいしか行ったことがないが、あそこの店はシアのお気に入りだった。
「その石は、我が商会の店に置いてある、親石に近づけると光を発します。そういった性質を持った珍しい魔石なのです。代々、我が商会の恩人に渡すことになっていますの。娘の恩人は我が商会の恩人ですわ。ですので、遠慮なくお使い下さい。」
「使う、とは?」
「あら、我が商会はある程度はこの王国中に知られているいると自負していますの。ですから、困ったことがあれば遠慮なく我が商会の名前をお出し下さい。そして、そのペンダントを見せれば便宜を図っていただけるでしょう。『エントラーナの恩人の魔石』が偽造不可なのは皆さんよくご存知ですから。まさに歴史は語る、ですね。」
歴史は語るねえ。
偽造されたことがあるんだってことが丸わかりだな。
そしてそれを隠そうともしない。
おお、怖っ。
こいつはあれだろ?
エントラーナが隠れて消したってやつだ。
「困ったことがなくとも、何かご入用の際は是非とも我が商会をご利用下さい。誠心誠意勉強させていただきます。」
勉強してくれるってことは、割り引いてくれるってことだろ?
ギルドとどっちが安いんだろ?
「わかりました。ありがたく受け取っておきますね。では、プギー子爵が来ないうちに私は行きます。」
「はい。引き止めて申し訳ありませんでした。お気をつけて。」
さあ、王都にでも行くか。
イグワーカンにこっそり会えるといいな。
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side リジー・サイカ・エントラーナ
行きましたわね。
私の名も知らぬ恩人さん。
あの方が要らしてくれて本当に良かった。
歳をとって漸く出来た可愛い愛娘。
馬鹿息子達も溺愛するばかりで、躾もろくに出来ていなかった。
まさか勝手に家を飛び出すなどとは思いもしなかった。
本当に、よかった。
死ななくて本当に。
道に、どう見ても暴走している馬車の進路上にあの娘を見つけた時は本当に心臓が止まるかと思ったわ。
これからはビシバシしつけなくっちゃ。
あの娘が、恩人さんに直接御礼が言えるように。
会った時に恥をかかないでいられるように。
きっと名も知らぬ恩人さんはご身分の高い方でいらっしゃるから。
名を尋ねなかったのはそれもあったから。
時に知らないってことは大きな武器にもなるのよ。
...騒がしいわね。
何かしら?
「はぁっはぁっ。こちらに銀髪の美青年が来ませんでしたかっ?」
あの方を探しているのかしら?
まさかプギー子爵の手のもの?
いいえ、それにしては速すぎるわ。
それにプギー子爵の子飼いにしては綺麗な子。
まるで男装の令嬢だわ。
「いいえ、見ていませんが?」
まあ、どなたに聞かれるにしてもあの方のことは言わないのだけれど。いえ、言えないかしら?
教えられるようなことは何も知らないのだもの。
恩人の不利になるようなことはしないわ。
あの方、隠れているようだったもの。
オーラがありすぎて逆に目立ってはいたけれどね。
さあ、今日はもう家に帰って明日も稼がなくっちゃ。
愛娘の躾をしていくわよ。
ついでに馬鹿息子もね。
ルビと傍点の入れ方を学んだので、入れてみました。




