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第84話 善の呪操師

「いいか……もっとも単純な質問をするぞ、どんな職に就く気だ? 農村でも探して、畑でもいじくるのか? 言いたくはないがピシェの身体では俺たちが働いている間、ピシェは一人孤独で待つことになるぞ」


「……そんなことなら、俺に良い案があるぞ」


 気絶していたのではないかと思えるほどに今まで反応一つ見せなかったトレイルが脳を抑えるように立ち上がると、頭を刺激しないよう、細々と喋った。


「なんだと――」


「どんな案か聞いてもいいかしら?」


 今にも文句を投げかけようとするトラスの黙らせ、アーシーは聞いた。


「もちろん。俺が紹介する仕事は呪操師だ。それも解呪師公認のな」


「……?」


 言葉の意味が少しも理解できなかった呪操師家族は皆首を捻り、その中でギタンが先行し、トレイルに質問を行った。


「どういう意味だよ? おいらにもわかるように説明してくれよ」


 呪操師家族だけではなく、アルゴルンにガナス、カティにシシー、シローまでもがトレイルの答えに期待していた。


「言葉の通りじゃダメか?」


 この場にいるほとんどの者が首を振るうと、トレイルは大きくため息を吐き、割れるような頭痛を騙しながら長々しい説明を行う覚悟を決めた。


「……少し前に――」


「少し前に解呪師の長、解呪長がある提案をしたのです。それが呪操師の合法化。それが解呪師公認の呪操師です」


 トレイルの顔色を汲み取ったのか、ルナは解呪師内でもあまり知られていない新システムをすらすらと代弁する。


「ちょ……ちょっと待て、そんなことをしたところで、呪操師や解呪師になんの得があるんだ?」


 痺れを切らしたアルゴルンはトレイルに問いかけたが、答えはルナから返ってくる。


「あります。対立関係にあるはずの『呪い』をあえて国に認めてもらうことで、今まで密かに呪いをその身に欲していた人たちを救うことになるのです」


「呪いを……欲する者だと」


 ボム・チェンジと言う足枷あしかせにしかならない存在を背負わされているアルゴルンにとっては、呪いによって救われる者がいることなど信じられなく、もはや憎いとすら思えた。


「本当にそんな人がいるんですか?」


 ルナのすぐ隣で膝をついていたシシーはアルゴルンと同様な疑問を浮かべていた。それもそのはず、シシーは呪いのおかげでトレイルたちと出会えたが、それ以上に呪いのせいで故郷の人々から襲われたのだから。

 トレイルはそんなシシーの気持ちを知っていたためか、ルナが答えようとした言葉を奪った。


「例えば……呪いには徐々に人を眠りにつかせる『スリープ・タイム』がある。もしも呪操師がそれを改良し、安眠できる呪いに変えることが出来たとしたら、それは不眠に悩む人々を救う手段となるんだ。対極しているからといって、敵意を示すだけじゃ何も変わらない。受け入れることが大事なんだ。って、とある解呪長が俺に自慢してきた」


 少しは和らいだ頭を押さえながら、トレイルはとある解呪長の姿を思い描いていた。

 ずいぶんと自由奔放で、年寄りの古臭い頑固な考え方からはかけ離れた存在。トレイルと似ており、それでいて全くの別人。


「そっか……」


 呟くように頷くシシー。完全に納得のいく説明ではなかったが、今はこれ以上とやかく言う時ではないと判断したようだ。


「どうやら、デマじゃないようね。解呪師さん」


「もちろんだ」


 確認でも取るかのようにアーシーはトレイルの方へゆっくりと近づいていく。それを見たアルゴルンは再び柄を握るが、ガナスがそれを止めた。敵意はないと感じ取ったらしい。


「あたしもギタンもそれで嬉しいんだけどね、ピシェとトラスがまだ納得できてないみたいなのよ。一番の年上として、一致団結ができてないのは色々とマズイのよ。だから一発だけ納得させてもらうわよ」


 恐ろしくも和らいだ笑みを見せると、アーシーはトレイルの頬を掌ではなく握りこぶしで容赦なく殴り抜いた。

 ゴツっと言う骨同士のぶつかる音が鳴るとトレイルは収まりかけていた頭痛を再発させ、片膝をついた。


「ゴメンゴメン。でもこれでひとまずは納得できたから。皆」


 目で他の呪操師家族を差すと、ギタンは変わらない喜びを笑顔を見せ、トラスは今までにされた行いを思いだし、嘲笑を見せつけ、ピシェは相変わらず鼻下まで覆ったフードのせいで感情を読み取りずらかったが、心なしか口元が和らいで見えた。


「暴力に訴えてないのかよ……いまの……」


 全ての者が全てのことに納得できたわけではないが、アーシーの言う通り、ひとまずの収束が訪れた。

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