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第72話 三連続な名前の人たち

「一つ二つ、いいですか?」


 ケットウッドに入り、シローを救うために必要とするある実を探しているトレイル。そしてわかりきったように先行するルナの両名。

 そこまでの息苦しさも感じないなか、あることを聞くため、トレイルは自然なタイミングを見計らっていた。

 そしてすぐに訪れた盛大かつ声を掛けるにおかしくない転倒を見せてくれたルナ。

 手を差し伸ばし、起こしてあげた辺りを見計らい、トレイルは聞く。


「なんでしょうか?」


 両手で顔全体を隠す様に擦っていたルナはこもり声で答えた。


「あ、いや……一つ目は大丈夫かな、と」


 白さが際立っていたワンピースを土色に染まっており、日除けかなにかの為に被っていたツバの広い麦わら帽子も、首の後ろにまで逸れており、麦わら帽子に付いた紐が引っ掛かっている。


「はい。全く持って大丈夫です」


 妙に覇気の籠った返事をすると、転倒の原因である、スリスリと餌でもねだるように足首にすり寄ってくる猫たちに「ダメですよ」と一声かけた。

 すると、ルナの言葉を理解しているかのように猫たちが少しだけ距離を取った。


「もう一つですが、名前の由来とか……聞いても?」


 もし普段から気にしていることかもと想像し、なんとも申し訳ない気分になったトレイルだが、反対にニッコリとした笑顔をルナは見せた。


「可愛いですよね、マナって名前。ガナスさんともお揃いですし、カティちゃんともお揃いですし」


 なんとも申し訳ない気分になっていたトレイルはさらに申し訳ない表情を作った。


「いえ、そっちじゃなくて『ルルルナ』の方なんですが……」


 瞬間、ルナの表情から笑顔が消えかけたが、すぐに笑顔を作りなおした。


「そちらですか。そうですよね、珍しいですよね、ルルルナだなんて名前」


 まるでルルルナと言う名前を嫌っているような口調だった。


「でも、私は好きですよ。他の人にない独特の雰囲気を出していますから」


 だが、その直後に自分で言った言葉を否定した。


「あの、俺が聞きたいのはルルルナさんの――」


「ルナでお願いします。ガナスさんが付けてくれたアダ名ですので」


 あまりにも眩しく輝く笑顔で言い放ってくるので、それに釣られるように、トレイルも笑いながら頷いてしまう。


「それじゃルナさん、俺は少し前の旅で『ルルルナ』って名前と似たニュアンスの人物と出会ったんですが――」


「本当ですか!? 名前は? 名前はなんと言う方ですか?」


 二度もこちらの言葉を遮られ、圧倒されたトレイルは後先を考えることなく例の名を口にした。


「ゼ……ゼゼゼア……さん?」


 自分でもなぜさん付けしたのか不思議に思ったトレイルだが、そんなことどうでもよいと思わせるほどにルナは歓喜を見せ、飛び跳ねた。


「ゼゼくんが!? 懐かしいなぁ……元気にしてるかな?」 


「はい、仏頂面ぶっちょうづらでしたけど」


 言うと、ルナは突然北の方角に目を移し、背伸びをした。


「変わってないなぁ……ゼゼくん」


 故郷の方角を見ているのか、トレイルが見たルナの横顔はえらく遠い目をしていた。


「それで、ルナさんもといルルルナさんと、ゼゼゼアさんは一体どんな関係なんですか?」


「同じ里の友ですね。いつもいつも無愛想な顔をしていて、いつもいつも里を抜け出したいと愚痴っていました」


 昔話を楽しそうに語るルナは、どこか若々しい口調に聞こえた。


「同じ里?」


 トレイルが聞くと、変わらない笑顔でこう答えた。


光聖樹こうせいじゅの下の里、外の方は私たちのことを『光聖樹の民』と呼んでいます」


 『光聖樹』それはトレイルが解呪師になるための試験に出題されると言うことで、耳がタコになるほどにベルから教えられたキーワードの一つだった。

 北部の、更に最北端に位置する樹木で、大陸の全てを見守っているのでは、と言われるほど大きさを誇る樹木であるとかないとか。


「ご存じなかったのですか?」


 光聖樹はともかくとし、その下で暮らしている民のことなど欠片も学んでいなかったトレイルの表情を読み取り、ルナはそんなことを聞いてきた。


「まあ……」


 曖昧に答えると、ルナはトレイルが手にしていた杖を指差した。


「この杖は光聖樹の幹で作られているで、光聖樹と深い関係を持っている解呪師さんなら知っていると思っていたのですが、ごめんなさい、考えが浅はかだったようです」


「あ……いえ、光聖樹こうせいじゅのことは知ってましたよ。古聖獣こせいじゅうとニュアンスが似てるので。俺が知らなかったのは、『光聖樹の民』の方です。そんな名、今まで聞いたこともなかったので」


「そうですね……モンスター・パニックが起きる前は、ずいぶんと活気に溢れた場所だと聞いたのですが……」


 故郷を懐かしむルナの言葉は、酷く切ないものだった。


「そうそう、光聖樹と古聖獣が似てるってトレイル君、言ってましたよね」


 だが、次に瞬間からは人が変わったように陽気な笑顔に切り替わっていた。


「はい」


 ルナの変わり身の速さに驚きながらも、耐性が付き始めたトレイルは冷静に答えた。


「それもそうですよね、だって古聖獣は、光聖樹から生まれたのですから」

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