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第73話 古聖獣と光聖樹

「え!?」


 さらりと飛び出る新事実に、耐性が付き始めたばかりのトレイルでも耐え切れなかった。

 手にした杖を睨み、本当にここから古聖獣が生まれたのか、確かめるように叩いてみる。反応はない。


「ふふ、ジョークですよジョーク」


 してやったりと、微笑むルナ。


「でも、光聖樹と古聖獣の間に特別な関係があったのは確かですよ。光聖樹にも、『古聖獣との友好よ永遠なりて』と刻まれていましたし」


 あんなジョークを聞かせれた後では、どうしてもに疑いの目を向けてしまうトレイル。


「あ……信じてませんね?」


 愛想程度に首を横に振るうが、すぐに見破られてしまった。


「そうですね……私がシローちゃん――もとい古聖獣について詳しいのも光聖樹の民だからですよ? シローちゃんを治癒する実の存在と、それのありか。後は……私が古聖獣のそばにいることですね」


 本来はガナスに惹かれ、カティン村に永住することを決意した頃に、偶然シローと出会ったのだが、それは口にしなかった。


「……それが本当だとして、追加で質問してもいいですかね?」


 ルナの顔を面と向かって見つめるトレイルの表情は、生きた者の活気が見られないほどに冷めていた。


「ええ……」


 それに気付いたルナも、それ相応の覚悟で頷く。


「古聖獣――ユニコーンについて、知っていることを教えてくれませんか? 居場所とか、角のこととか」


「ユニコーンですか?」


 ルナはトレイルの突き刺すような視線から目を逸らし、考えた。

 この者がなぜユニコーンについて知ろうとしているのか。ではなく、自分の有する情報を軽はずみに教えてもいいものかと。

 たしかに、この解呪師が悪人とは到底思えない。それでも、簡単には言えるようなことではない。


「その理由はなぜですか?」


「言いたくありません」


「それでは私の立場がありません。ユニコーンに対する敬意が消え、大事なことを言いふらすおしゃべりさんと思われることになってしまうので」


「……」


 ルナの瞳から目を逸らしたトレイルは、珍しくも不快を表すような表情で地面に寝転がる猫たちを睨んだ。


「救いたい人がいるんです。そのためには、『ユニコーンの角』がどうしても必要なんです……」


 ルナの口調からこの人がユニコーンに関する情報を持っていると考えたトレイルは、己の肺を痛めつけるよう無理やりに言葉を吐いた。


「それは誰ですか?」


「言えません……」


 歯を食いしばり、杖をへし折るつもりで握り締める。


「その人は大切な方ですか?」


「……はい」


 呼吸を荒げ、つい舌打ちを鳴らしてしまう。


「そうですか? それは――」


「止めろ!」


 絶えまない苛立ちに、我慢を爆発させたトレイルが怒鳴る。全速力で走りまわったように息を切らしたトレイルは、ルナを睨んだまま杖全体を発光させた。


「俺は大切な人を助けたいだけなんです。そしてそれにはユニコーンの角がいる。ただそれだけのことに、幾十もの質問が要りますか? 要らないはずです」


 発光する杖に目をやったルナは、再度トレイルの目を見て、謝罪した。


「すいません。不躾ぶしつけに質問ばかりしてしまい。それと……これも言いにくいのですが、実は私、ユニコーンの居場所なんて知らないんです」


 呆然とするトレイルだったが、次第に苦笑を漏らした。


「そうですか……わかってたことです、簡単じゃないことぐらい」


 もはや諦めている風にすら思えるトレイルの言動。ルナは逆の立場になったつもりで考えたが、よくわからなかった。


「なぜ古聖獣を? 彼らは百年前に絶滅したと記録されているのですよ?」


「そういうことはシローを見てから言ってください。俺はシローと始めて会話した時から、古聖獣が絶滅したなんて思わなくなりましたよ」


「そう……ですね」


 一度言い淀み、頷いたルナは、安易に繋ぐことを禁止された言葉を繋いだ。


「トレイルさんの言う通りです。古聖獣は絶滅などしていません。ですが、今は――少なくともあなたが生きている間は、姿を見せることはないと思います」


 ロウソクに灯る程度の希望が生まれ、それを消すまいとトレイルは必死になって喰らいついた。


「どういうことです!?」


 思わず発光したままの杖から触手が飛びだし、ルナの身体を覆いそうになるも、寸前で杖の中へと戻って行った。


「あなたの願いに免じて教えますが、他の――特にシローには内緒ですよ」


 人差し指を口元に当て、愛らしい仕草を取るルナ。トレイルも頷き、続きを待った。


「単刀直入に言いますと……古聖獣はどこかに姿を隠し、彼らが居なくなるのを今か今かと待ち望んでいます」


「彼ら?」


「呪操師です。彼らの存在を古聖獣は脅威になる判断したのかもしれません。少なくとも、私はそう考えています」


 脳内がパンクしそうになってきた。

 解呪師と呪躁師。古聖獣と光聖樹。そしてそれら四つはどこかで、奇妙な糸で絡み合っていることが、トレイルの思考をかき混ぜていく。

 だが、複雑に絡まっているように思えた糸に、微かな解き目が見えた。


「ちょっと待った。古聖獣が絶滅したのはたしか……」


「はい、おおよそ百年前と言われています」


「そして、この大陸で呪いが流行したのも百年前……」


「呪いの流行、それを呪操師の誕生と仮定するのでしたら、古聖獣が姿を隠した時期とピタリと合います」


 ガチガチにび付いた歯車に思えたが、絡め方のコツが分かれば連鎖的にはまり合う。

 古聖獣の能力は人知がどうのと言うレベルではない。だが呪操師の能力も人ならざる力と呼べるほどに凶悪である。古聖獣がそれに危機感を抱いても、なんら不思議ではない。


「ルナさん、古聖獣が姿を隠しているって話、本当ですか?」


「はい。光聖樹の民は皆知っています。ゼゼ君を除いてですが。ちなみに、光聖樹の年齢はおおよそ百四十だと言われています」


 まるでヒントでも出す様に、まるで自分はクイズの答えを知っているかのようにルナは情報を与えてくる。

 辿りついてほしいからなのか? しかし、トレイルの頭ではそれに対する答えどころか、後一歩の所まで来ている答えすら、限界寸前に達している。

 ポスン。

 脳の回路がショートする音と共に、トレイルはこれ以上考えないことにした。


「一応ですが、古聖獣が隠れてる場所って、わかります?」


 ルナは地面を向き気味に首を振った。


「申し訳ありません。そこまではさすがに……おさならなにか知っているかもしれませんが……」


 そんなこと言われてもどうしようもない、なぜなら南部にいる者に逆サイドの北部の端っこまで行ってこいと言っているようなものだからだ。


「わかりました。この話はもう止めにして、今は実を探すのに集中しましょう」


「はい」

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