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生まれて初めて私のものを奪い続ける義妹に感謝した日  作者: 忍者の佐藤


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3

 


 実はコルネリアとエクトールは昔会ったことがある。エクトールは忘れているようだが、コルネリアにとっては忘れがたい経験だった。




 この国には宮廷学園制度というものがある。国民の学力、魔力の底上げを標榜して作られた、主に貴族やお金持ちの家の子が寄宿制で学ぶ学校だ。7歳の頃から6年間通うことが出来、望めば大学までエスカレーター式に進むことも出来る



 コルネリアがまだ入学して間もない頃、いきなり「デブ!」と後ろから突き飛ばされた。

 振り返ると上級生と思しき男子が数人立っていた。

 その真ん中に立っていた少年こそ、エクトールだったのだ。


 その頃コルネリアは太っており、エクトールのようないじめっ子には格好の標的だった。二つ上の上級生数人にイジメられては、コルネリアは太刀打ちしようがなかった。


 教師に助けを求めたことは何度もある。しかしエクトールは侯爵家の令息。一応、やんわりとした注意はしてもらえたが、エクトールたちは教師にバレないやり方で、彼女をいじめ始めた。


 何度も実家に帰りたいと思った。でもそれは負けるみたいで悔しくて、必死に耐えていた。

 それでも限界だと思っていた時、ある人物との出会いで状況が一変する。


 それがレオンという同級生だ。

 彼は裕福な騎士家の五男で、著しく頭の悪い少年だった。全ての科目で落第レベルであり、最早二年生に進級出来たことが奇跡と言われた。

 しかし頭が悪いからこそ、損得で物事を判断することが出来なかった。彼が判断基準にしたのは常に自分の信念。


 レオンは他の生徒が怖がっているエクトールたちに一人で歯向かった。

 当然、体格が全く違う。たちどころにボコボコにされてしまった。しかしどれだけ打ちのめされても彼は立ち向かうことを止めなかった。


 コルネリアは毎日ボロボロになって帰って来るレオンを、泣きながら手当した。「もう良いよ」と彼女が言っても「いいや、良くない」と、頑として譲らない。己の信念に従い続けた。


 根負けしたのはエクトールたちの方だった。レオンは負け続けたが、エクトールたちも無傷ではいられなかった。頭突き、噛みつき、金的攻撃を繰り返すレオンに嫌気がさしたらしく、いつの間にか彼らはコルネリアたちの周りから消えていた。


 そしてこのことが、後の彼女の人生を大きく変えることとなる。





 ◆


 話は少し逸れたが、エクトールとコルネリアが再会したのは社交界デビューをして直ぐだった。

 顔を見た瞬間、手が、足が、小刻みに震えた。身体が恐怖を覚えていた。


 幾ら着飾っていようが、外面を取り繕っていようが、忘れようがなかった。あのイジメの体験はコルネリアの一番のトラウマ。エクトールから笑顔で罵られ、髪を引っ張られ、足蹴にされてきたこと。今でも突発的に動悸が激しくなることがある。


 ところがエクトールは何事も無かったかのように声を掛けてきた。やんわりと探りを入れてみたが、全く自分のことを覚えていなかった。

 先ずそのことに驚いた。



 不運な事にコルネリアは気に入られてしまった。夜会で顔を会わせるたびに話しかけてくる。気持ち悪くて常に吐きそうだった。しかし相手は侯爵子息。

 コルネリアは角が立たないように「(お前の顔を見ると)気分が優れませんので」という理由でその都度断った。それが精一杯の意思表示だった。

 だが彼は執拗だった。コルネリアの意図に気付くどころか、更に接近をはかって来た。根は変わっていないのだと確信した。



 彼がここまでコルネリアに執心するのは、見た目が好みだからではないと考えた。コルネリアの実家、ラインフェルス伯爵家は古くから教会との繋がりを持っている。

 コルネリアの父、エグモントは、父親としては無能極まりないが、うるさがたの司教たちを宥め透かし、王家との緩衝材の役割を果たす術には非常に長けていた。

 次期宰相を目指すエクトールとしては、ラインフェルス家との繋がりがどうしても欲しかったのだろう。


 エグモントはエクトールを気に入っている。婚約の話が向こうから来たら、二つ返事で了承しかねない。


 危機感を募らせながら日々を過ごしていた。

「お姉さまだけずるい!」

 エクトールから届いた手紙をうんざりした気持ちで眺めていると、そんな言葉が背後から響いた。

 イレーネだ。

 どうやら姉がエクトールに気に入られていることが、気に入らないらしい。

 口には出さなかったが「今回ばかりは譲ってあげたいわよ」と心では思っていた。


 ん? 譲る?

 ……。

 そうだ、譲ってあげれば良いじゃん! 

 それは天啓に思えた。


 こうしてコルネリアは計画を立てた。先ずエクトールを屋敷に呼ぶ。そしてイレーネに「絶対に出てこないでね」と釘をさす。

 そうすると必ず彼女は出てくる習性がある。

 何故ならイレーネは、コルネリアが嫌がることを率先してやろうとする、終わっている性格の持ち主なのだから。


 こうなるとあとはオートマティックだ。

 顔はコルネリアよりイレーネの方が可愛い。外面も良い。親の後押しもあるだろう。そうすると、エクトールはたちどころになびくに違いなかった。

 彼からすればラインフェルス家との繋がりさえあれば良いのだ。


 目には目を。歯には歯を。モンスターにはモンスターを。


 そうして、計画を実行に移した結果、面白いほど思惑通りになった。

 コルネリアはイジメの主犯格と、盗人の義妹を同時に片付けることに成功したのだ。



 ◆





 数か月後、イレーネとエクトールが離婚した。

 コルネリアの予想通り、やはりエクトールは暴力を振るう男だった。イレーネは何度もDVされ、日常的なモラハラも酷かったようである。

 イレーネはイレーネで、自分の思い通りにならないとヒステリックに喚き散らし、手当たり次第に物に当たる。侯爵家内の貴重な物品も幾つかやられたらしい。

 もう怪獣大戦争である。



 こうしてイレーネはさっさと実家に返品されて来たが、業火の出す煙のように、噂は急速に広まった。


 即ち「エクトールは伯爵令嬢イレーネをDVしていた」「決して口にしてはならない言葉で日常的にイレーネを罵った」などだ。

 噂を広めているのは誰なのか、この時はコルネリアにも分からなかった。


 イレーネではないことは確かだ。彼女は心に傷を負っているらしく、家に引きこもっていたのだから。

 だが皮肉なことに、彼女が家に引きこもっている事実が、信ぴょう性の高い噂だと世間から認識される一因になった。


 エクトールは徐々に社交界で肩身の狭い思いをするようになる。

 それまで、羨望の眼差しを向けていた令嬢たちの瞳に怯えの色が滲み始め、仲の良かった貴族たちも一歩引いて彼と会話している。


 次期宰相候補を巡る戦いは壮絶な蹴落とし合いだ。一つの醜聞が命取りになりかねない。

 このままでは、もう一人の次期宰相候補、グエイン公爵に負けてしまう。

 エクトールは焦っていた。

 そして彼の心は再びコルネリアに向かっていた。


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