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侯爵家の馬車が到着したという知らせがあり、玄関前で待っていた。やがてドアが開き、エクトールが姿を現す。
「よくおいで下さいました、エクトール様……」
コルネリアがカーテシーをしたその時。
「初めまして、エクトール様!」
いつの間にか横に居たイレーネが、コルネリアに被せるように言った。
「や、やあ。コルネリア。それから君は……」
「イレーネと申します。今日はエクトール様が来るのを楽しみにしておりましたわ」
そう言って彼の手を取り、胸を押し付ける。庭の方へ引いて行く。エクトールは困ったようにコルネリアの方を見た。
「イレーネ、エクトール様は私のお客様なのだと……」
「少しエクトール様とお庭を見るだけです。すぐに戻りますわ!」
イレーネは一度も振り返らなかった。コルネリアは父親の方を見たが、肩をすくめているだけだ。
結局その日、イレーネとエクトールはずっと一緒に居た。
エクトールが戻ってきたのは、帰宅する時間になってからだ。彼は申し訳無さそうな顔をコルネリアに向けた。
「ちょっとイレギュラーがあったけれど、また来るから」
エクトールが帰った後、義妹に猛然と抗議した。
「出てこないでって言ったのに!」
イレーネは可愛らしく首を傾げ、とぼけた顔で見返してきた。
「それがどうかしたの?」
明らかに馬鹿にしている。コルネリアは唖然とするしかなかった。
エクトールの訪問は続いたが、やはりイレーネは、コルネリアとエクトールの間に割って入り続けた。
最初は戸惑っていたエクトールも、徐々に違和感なくイレーネと会話するようになっていた。
イレーネは姉の目から見てもかなりの美人だ。それに、可愛らしい仕草、男心を掴む言動を彼女は心得ている。
心を奪われたのはエクトールも同じだった。
コルネリアは完全に除け者だった。
「今度、一緒に舞踏会へ行こうと誘われたの」「エクトール様ったら私のこと、世界で一番可愛いっていつも言ってくれるのだわ」
イレーネは口を開くたび自慢げに言う。
そしてついにその日が来た。ある日両親に呼び出され応接室へ行くと、エクトールと義妹が居る。
コルネリアは目をしばたたかせた。
「これは、どういうことなの?」
「許してくれ、コルネリア嬢」
エクトールは申し訳無さそうに顔を下げる。
「ごめんなさい、お姉さま。私たち、愛し合ってしまったの」
妹も目に涙を溜め、得意の表情で言う。
「ちょっと、話が見えないわ」
コルネリアは頭を振った。
「僕たち結婚することになったんだ」
エクトールはイレーネの顔を見つめて言った。熱のこもった視線だった。
「そんな……」
コルネリアの声は震えていた。
「君のことは今でも魅力的な女性だと思っている。でも君は優秀で一人でも生きていける。イレーネは、僕が居ないとだめなんだ」
「エクトール様……」
イレーネはエクトールに抱き着き、熱い視線を返していたが、不意にコルネリアの方を見た。勝ち誇った笑みが浮かんでいる。
「そういうことなの、お姉さま。今までありがとう」
エクトールをこの屋敷に連れてきてありがとう、という意味なのだろう。
コルネリアは唇を噛み締め、握った拳を震わせていた。両親が何やら慰めの言葉をかけてくれているようだが、全く耳に入っていなかった。
コルネリアは応接室を飛び出すと、走って自室に飛び込んだ。
ドアを開けた瞬間、メイドのハンナと目が合う。
「お嬢様、どうでした……?」
ハンナは注意深く様子を窺うように聞いてくる。
「エクトール様とイレーネ、結婚するみたいよ」
ハンナは大きく口を開けた。
「それは……」
コルネリアは小走りにハンナの元へ行き、抱き着いた。二人はまるで、10年越しに会った親友かのように、深く抱擁を交わす。
「ハンナ……!」
「お嬢様……!」
二人の目じりには涙が滲んでいる。それはまがいものではない、本物の涙だった。
「頑張りましたね」
ハンナがコルネリアの頭を撫でつつ言った。
「ええ! ようやく、解放されるのだわ! 強欲な妹からも、あの男からも!」
「作戦成功ですね!」
「私はやっと自由を手に入れたんだわ!」




