第7話 拠点決めとテント張り
クレヴァーが加わったことで、シュルードとサイキの険悪な空気が和らいだ。
髪をかきあげて、ソロウは長くため息を吐いた。
――今からこれで、先が思いやられるな。
大雑把にまとめても、この無人島に居るであろう子どもたちの性格は、ある程度分けられる。
中でも、シュルードは協調性に乏しく、常に不満を口にしている。よく言えば感情に素直だ。
スライとサイキは、人当たりよく明るい性格で場を和ませる。逆に思いやりに欠けた言動は、目に余ることがある。
ティミッドは、何事にも慎重で臆病だ。代わりに、グループ行動から外れることはあり得ない。
クレヴァーとウェアリーは、落ち着いた性格だ。思考力があるものの一歩引いた姿勢は、即決の場面では足を引っ張る。
エアは、基本大人しく物静かな方だ。平時は目立たないが、VR中は頭がキレる。自然と女子の統率を担っていた。
「……クレヴァーのロープと、スライのビニールシートを使って、休むための簡易テントを作ろう。
それからティミッドの図鑑を使って、先ずは見える範囲で、食べられる植物が無いかも探そう。
水分は各自好きに飲んで、食料の方は少し我慢してくれ。タイミングは伝える。
エアが合流したら、その後を話し合おう」
今は晴れているが、天候は変わる可能性もある。雨をしのげる場所の確保はしていても良いだろう。
――持っている荷物は、一日分だ。
教員が言った救助、修学旅行の観点から考えても一日か二日後には来るのではないかとソロウは予想を立てていた。
「島の探索とかしないのー?」
いかだに続き、冒険心が先立つのかサイキが明るく声を上げた。スライがそれに反応し、ソロウの方へ期待を込めた視線を向ける。
「いずれはするだろう。水源の確保も食料の確保も、長引けば必要だからな」
「はぁ? 長引くってなんだ。すぐ救助が来て終わるんじゃないのかよ。ふざけんなよ」
それに対してソロウは、本音で答えた。不安を煽りたくもないし、そうならないことを祈りたいが、先行きは不透明過ぎた。
後ろでシュルードが、ブツブツと言っている。
「……ただ、救助を待つためにも、今は墜落現場から離れるのは得策じゃない。
クリア条件でも無いんだ。無人島探検なんて別の機会でいくらでもすればいい」
趣旨から外れることは避けたい。やりたいことは、安全が確保されたVRで好きなだけすればいい。ソロウはそう断言する。
シュルードの一人言には触れずに話を進めれば、周りでそれ以上、口を出す者はいなかった。
「じゃあ、テントの場所はどうする?」
クレヴァーがロープを出しながら、指示を求めてきた。ソロウは、それにも答える。
「残骸の先頭と木を利用して張ろうと思う。胴は、さっきまで火があったからな」
辺りを見る限りは、今はどこからも火の手が上がっていなかった。けれど、念には念を入れておきたい。
ソロウも、森の中で木を使うことも考えなかったわけじゃない。
――全員が休むには、木々の間は狭いし、バラけてしまう。
視界が遮られることも考えると、墜落によって開けた場所がもっとも広く、まだ安全と言える先頭が妥当だった。
「テントは、俺とクレヴァーで張る。ティミッドはクレヴァーの補助。残りは、周辺の植物を中心に散策してくれ。
ここから離れず、見える範囲にいろよ、解散」
ソロウはそう言うと立ち上がり、クレヴァーの方へ歩いた。ロープを受け取るためだ。
「ソロウは相変わらず博識だね。作り方が分かるんだ?」
「ただのVRオタクの雑学だよ。しかもテントって言っても、雨をしのげる程度の簡易だ、簡易。縛って終わり。縛り方は、教えるよ」
クレヴァーが、感心するように話しかけてきた。ソロウは、ナップザックからナイフを取り出してそれに答える。
「はいこれ、ビニールシート」
ティミッドが図鑑と、スライの持つビニールシートを交換して持ってきた。
――約二メートル四方ってところか。
ティミッドの持つだいたいの大きさと折り畳んだ回数から目算を立てる。
ありがたいことに、角には穴が空いており、補強するための丸い金属の輪がはまっていた。
さらにクレヴァーからロープを受け取って、かなり長そうな量に内心驚いた。
材質も、原始的なロープだった。細い縄を三本、寄り合わせて作られている。
――あえて使いきるか、残しておくか。
ソロウは迷った末に、テントの仮説位置へ向かう。ビニールシートを中央に置いて、必要な長さを測る。三本はそれに合わせた量で切り揃えた。残りは、長い一本の状態で残すことにした。
切った方のロープを二本、クレヴァーに渡す。
「試しに一本結ぶから、覚えてくれ。クローブヒッチっていうんだが、こう一周、回してから……」
ソロウはビニールシートの輪を使って、やり方を二人に見せた。
その後、手分けをして雨避けのテントの設置をする。
――こんなことに、リアリティなんて出すな!
長さが余ったロープの余分な部分を、ソロウが木に巻きつけている時だ。
強い風が吹いて、ビニールシートが宙へ舞い上がった。
ソロウの方は、見本で片方を縛っていたこともあり被害は軽微だ。
「っ! シュルード、シートを抑えるのを手伝え!」
近くで草を抜いていたシュルードに、ソロウが声をかけた。
クレヴァーの方が、反対に苦戦していた。ティミッドが慌てて、ビニールシートを掴もうとしているが空回りしているからだ。
「はっ、それくらい、ソロウならわけないだろ?」
シュルードの冷えた視線を受け、諦めたソロウは気持ちを切り替えて、クレヴァーのフォローに回った。
その後、苦戦をしながらもロープで固定して、簡易のテント――雨よけはどうにか形になった。




