第5話 続々と集まる子どもたち
「サイキはここに残れ。俺はちょっと枝を集めてくる」
墜落現場は、少し開けた場所になっている。ソロウは森へ子どもたちを探すついでに、狼煙のための枝集めをしようと決めた。
「え! 私も行くよ!」
「あのな。せっかく二人居るんだから、片方は残るんだよ。誰か来た時に困るだろう?」
「えぇー」
ソロウは分かりやすく伝えたつもりが、サイキにふてくされてしまった。
――コイツ。
頭をガリガリと掻いて気持ちを宥めると、ソロウは再度、サイキへ指示を出した。
「いいか。ここに誰かが来たら、ここが集合場所だって教えてやるんだ。
それで一緒に過ごして待っててくれ。これは、サイキにしか出来ない。頼むぞ!」
「なんだ! それならそうと言ってよね。任されたよー!」
――最初から、そう言ってるっての。
ソロウは愛想笑いを浮かべ、サイキの気が変わらないうちに森へと入った。
長袖の上着を羽織り、ナイフをカバーごと手に持ち、ナップザックは背負っている。
「平成時代は全部で三十一年間、元年と三十一年とでは、自然環境以外にも、ネット社会の急速成長が見られて文化レベルも差はあるが、ここは果たして何年だろうな?」
枝を集めるのは荷物になるし、帰りでいい。ソロウはナイフで木に目印の傷を刻みながら、ザクザクと奥へと歩く。
青々とした森から察するに、季節は春から夏辺りで凍死の心配はしなくて良さそうだ。
暑さも感じるが、火元から離れ木陰に移ったせいか少し和らいでいた。
「三十一年の真夏は、観測地によっては四十度近かったらしい――と、すればそこではないのか?」
記録によれば、不要不急の外出制限も言われていたようだ。けれど今は、汗はかいても外に居るのがキツいわけではない。
平成初期は、真夏日の温度が晩年とかなり違ったらしい。空調管理が必要なかったほどだと言うのだから。
――どちらにしても、飛行機墜落時の救助方法が焦点だな。
アナウンスでは、平成としか明言されていなかった。仮説の粋を出ないが、ここは過去を想定されたVRで、過去の時代そのものではない。
生存リミットの七十二時間の考え方は、変わらずに適応されていると考えても良いだろう。
「教員も、もうちょっと情報を流してくれたらなぁ……」
その真偽さえも不明だが、検討するデータは多いに越したことが無かった。
一つ分かったのは、同じ島に子どもたちは確かに居ると言うことだ。
教員が飛行機を目指すようにと、アナウンスを入れたのだから。
今はただ、全員があの飛行機の側に集まるのを祈るしかない。
「――っ!?」
ガサリと葉の擦れる音が響き、ソロウがそちらへナイフを向けて野生動物かと警戒をする。
「こっわ! ぶつぶつと声が聞こえるなって思ったら、何すんのよ!」
茂みから、スライが現れた。木々に絡まらないよう、ツインテールを手に持っている。
「なんだ。スライか」
「なんだ、じゃないわよー。もう、驚いたじゃない!」
ソロウが緊張を解いてナイフを下ろし、安心して肩の力を抜いた。
反対にツインテールを振り乱したスライが、オーバーリアクションで騒いでいた。
「スライは、一人か?」
「ティミッドが居たよ。あれ、いない?」
「……お前、また周りを見てなかったんだろう」
後ろを振り返ったスライが、誰もいないことに不思議そうに首をかしげている。
確実に、森に置き去りにしたまま歩いてきたのだろう。
「ひっどい。そんなことないもん。というかソロウ。なんで、支給品のウインドブレーカー着てるの? 暑くないの?」
スライの格好は、身軽そうな半袖短パンのだ。太ももの長さの靴下に、ショートブーツで機動性には申し分ない。
が、自然溢れる無人島では適しているとは言い難かった。
「お前も着とけ。現状、不確定要素が多すぎる。日焼け、虫刺され、植物による引っ掻き傷、それらを防ぐためにも多生の暑さは我慢しろ」
「はーい。ソロウのそういうのは、聞いといて損ないからね。毎回、毎回、たかがVRのことをよく覚えてるよねー」
スライは、指摘通りにナップザックからウインドブレーカーを取り出すと袖を通した。
ソロウは実は中シャツは長袖だ。スライのように露出が多い者と遭遇した場合に、説明をして着せるため、わざと上着を羽織っていた。汗をかいているのは、そのせいでもある。
「俺は、無知で居ることが嫌いなんだよ。スライと違って、知ることに幸せを感じるからな」
「うわ、キモ」
ナップザックを背負い直したスライが口汚く呟いた時、涙目のティミッドが茂みから合流した。
「もぉ。スライ、置いてかないでよ。怖かったぁ」
「ごめん、ごめんー。でもアンタも歩くの遅いって」
本当に心細かったのだろう、ティミッドがスライに泣きついている。
――二人と合流したなら、一度戻るべきか。
ソロウがそう考えて居たところで、スライと目があった。
「そうだ、ソロウこれからどうするの?」
「教員が言った墜落現場が、この近くなんだ。一度、戻ろうと思う」
「ふぇ、ソロウは場所知ってるの? 助かったぁ」
ティミッドは感極まって、さらに鼻水まで垂らし始めている。
それに嘆息して、ソロウは持っていたナイフをナップザックにしまった。
「俺は、そこから来たからな」
来た道を戻るべく、木につけた傷を頼りに、ソロウは枝を集めながら墜落現場に向かう。
「木なんて集めてどうするの?」
「焚き火に使うんだよ。煙が空へ上れば、皆が目指すための目印になる。乾いた木があれば拾ってくれ」
スライに聞かれて、ソロウは足を止めずに答えた。飛行機の残骸の煙がいつ消えるともしれないからだ。さらに消えなくとも煙の多さに、迷わなくなるだろう。
しばらく歩いて見えてきた墜落現場には、何人かの人影があった。
「あ、ソロウ。言われた通り、皆で待ってたよ!」
「ああ、サイキ。ありがとうな」
飛行機の残骸から少し離れたところに木の枝を置いて、ソロウは礼を言う。
辺りを見渡して、シュルードとウェアリーを見つけた。
「あと、居ないのは誰だ?」
ソロウが確認のために聞けば、背後をスライが走っていき、ウェアリーに抱きついていた。
「ウェアリー、会いたかったよぉ」
「ソロウ、そっちは三人? なら残りはたぶん、エアとクレヴァーよ」




