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カンディデイト・チルドレン~少女を贄にするシステムなんて俺がぶっ壊す~  作者: 松平 ちこ


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第28話 優しい彼らに救済を。

《……嘘だ》


 抱えた球体を掴む少年の手に、ぎゅっと力がかかった。震える声で、目の前のことが信じられないといった風情だ。


「よぉ、久しぶりだな……。その、会う気はなかったんだが……。まぁ、仕方がない、呼ばれてしまっては」


 対してこちらはさっきの台詞とは裏腹に、気まずそうに頭を掻いて、罰悪そうに笑っている。

 けれど、どこか嬉しげで泣きそうな顔をしたサイキだった。


《あり得ない。互いに干渉が出来ないはずでっ!》


「それだそれ。ネットの中じゃ、神みたいなもんのくせして固定概念にこだわりすぎ。

 目の前を見ろ、ちゃんと居るだろ。バグは予想外だから、バグなんだよ。お前らに分かるか?

 どれだけ万全を期しても、トラブルなんかが沸いてくる、あの苛立ちが一周回って虚無になるやつ!

 あれこそまさに、ゲームで出てくる雑魚モンスターのエンカウントレベルだろ!」


 目の前にいる今代の少年とエアに向けて、ソロウは思いっきり罵った。

 それはもう頭に来ていた。二対一で聞く耳持たず、言いたい放題言ってくるのだから。


「ありとあらゆる可能性を想定して試行錯誤しても、想定外なんか生まれるものだ。

 AIの善悪? 一部? 下位互換は勝てないとでも? 諦めが悪いのが、未熟な人間様だろうが、ふざけんな!」


 ソロウの開きなおった啖呵に、後ろのサイキはずっと笑って聞いていた。


「良いな。ソロウ、もっと言え」


「サイキ、人を箱呼ばわりして笑うな。お前が言え。どう考えても、お前が拗らせたんだろうが、コイツのことは!」


 過去に処刑された男を捕まえて、ソロウは責任を突きつける。彼らの因習が根深いのは、誰の目にも明らかだった。


 ――重すぎるんだよ、あんな過去っ!


「……あの時は、あれが最善だった。サイキなんてモノもなければ、圧倒的な暴力に抗う術を、誰も持ってなかったんだぞ?」


「それでも、かっこよく誤魔化して、人にトラウマを植えつける理由にはならねぇよ。ここまで来たなら、向き合え!」


《……》


 ソロウが今代の少年を見れば、彼は未だ驚きに固まっていた。

 逃げるように目を泳がせていたサイキは、観念したかのように少年に向かって歩き出す。


「……悪かったな。守れなくて、先に逝って、全部任せて」


《……》


 ビクリと身を竦ませた少年の頭に手を乗せて、サイキはただ謝った。


「ありがとう。皆を見守ってくれて」


《……僕には、それしか出来なかっタ》


「俺には、何も出来なかったよ。お前の孤独も、アイツらの罪悪感も、見ていることしか出来なかったんだ。だから、ありがとうな。

 あー。こう思っちゃダメなんだろうが。死んだ俺としては、どんな形であれ、また会えて嬉しい」


 コツンと額と額を合わせて、サイキはくしゃくしゃに顔を歪めて笑った。

 今代の少年の孤独に擦りきれ絶望し、闇に覆われた瞳に揺らぎが見えた。


《……怒ってないの、恨んでないの?》


 震える声で、甘えるような呟きがその口から漏れた。涙をただ流していた先ほどと違い、その瞳に光と熱が宿る。あどけない少年の、人間らしい表情がそこにあった。


「それは、お前が俺に抱くヤツだろうが、バカ。アイツも最期に言ってただろ、好きにしていいと、俺も同じ気持ちだ。

 お前は……十分によくやってたよ。見ろ、俺の孫まで、こんなに元気に育ってたんだぞ?」


 サイキが隣のエアに話を振れば、彼女は面食らって目を丸くしていた。

 その様子を一歩引いたところで、ソロウは全員を見て肩の力が抜けた。


「……ほら、役者は揃った。俺に、ログアウト後も使用可能なアクセス権を寄越せ。エアを助けるために」


 和やかな空気が流れそうになったところで、ソロウは片手を出して早く寄越せと催促をする。


 ――エアは銃創が二ヵ所、焼いたとはいえ、処置は荒いし、出血量も多かった。


 目の前のエアはピンピンしている。だが人柱の条件が肉体の死ならば、このままでは先ず間違いなく死ぬのだろう。

 なら今、ソロウが普通にログアウトするだけでは結果は変わらない。AIが、都合よろしくことを運んで終わりなのだから。


「出来ないとは言わせない。ここにはそれが出来るだけの、抗い続けた猛者が二人も居るんだからな。

 お前ら、人のこと勝手に期待するわ、箱呼ばわりするわ、好き放題言ってくれるんだから、俺の言い分もちっとは聞け」


「ただの箱じゃない、パンドラの箱だ。それとも、ブラックボックスの方が良かったか?」


「どっちも変わらないね。開けるの一択なんだから。気に入らないものが出てきたら、俺はその結末をねじ曲げるだけだ」


 ふん、とあくどい顔でソロウが笑えば、横のエアも吹き出した。


「ソロウ、それ悪役……」


「エアにとってはそうだろうさ。お前の役割も覚悟も奪って壊すからな。

 俺は正義の味方なんて言う気はない。最初から最善を尽くして、全員で生き残ることが目的だった。

 それでミスってもその傷ごと抱えて、いつかは前を向く。無かったことにもさせない――それが、俺の生き方だ」


 無人島の掌握、全員のログアウト処理、その工程で教員の死が本当なのを知った。

 彼女はまさしく、見せしめとしてシステムに殺された。介入権を手に入れたところで、すでに過去で失ったものが戻ることはないだろう。


 ――このままじゃ、エアも。


 ソロウは教員の死因をログで読み込み知ってしまった。VR内での死因がどうやってか、リアルにもそのまま再現されている。


「手遅れになる前に、エアを救う。俺が望むのは、その為の権限だ」


「ソロウ。でも、それじゃ人柱が空白になる。今代がこのままでは、先ず間違いなく善悪のシステムに異常が表れる。だから、ここは私がっ――」


「二十四時間、三百六十五日!」


 躊躇いがちにエアが口を開いた。それをソロウは遮った。


「え?」


「不眠不休で寝ずの番して、おんぶに抱っこじゃないとダメなAIなのか?

 そんなのAIじゃないだろ。ただの怠慢野郎だ。それとも、そうでもしないと存続できないほど弱い世界なのか?

 この星の歴史では、人間が生まれたのは途中からだ。AIは、さらにもっと後に生まれたんだぞ? 居なくても成り立ってた時代があるんだぞ?」


「それは……! でも!」


 言葉にすれば、それはなんとも馬鹿馬鹿しい限りだった。ソロウは思わず怒りを通り越して呆れてしまったほどだ。

 エアも反発はするけれど、視線を彷徨わせ二の句を言えないでいた。彼女にもまた、初めて迷う素振りが見えた。


 ――本当にふざけてる。全部、ぶっ壊してやりたてぇ。


 そんなくだらないことのために、目の前の彼らは死ななくてはならないのか。そんなものは不要だと、ソロウはハッキリ告げてやりたかった。傷つくところなんか見たくない。笑う姿が見たかった。


「……長年続いた歴史を、赤子と断ずるか。お前は」


「おいおい。続いてこれなら、進化しなさすぎだろ。いつまでやってんだ、乳離れしろっつうの。

 そもそも善悪のバランサーなんて、常時接続じゃなくて通いで十分にすれば良いじゃないか」


 導入当初なら、反発も大きく善悪を問われる機会は多かっただろう。けれど、行動管理を徹底された今、枠に収まるばかりの人間社会になっている。

 そこに善悪を常時計るシステムである必要性があるのか、ソロウは懐疑的だった。

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