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カンディデイト・チルドレン~人柱の少女を救う術~  作者: 松平 ちこ


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第23話 不謹慎なまでの好奇心

「……つい、さっき?」


「ここでの傷は、やけにリアルだっただろう?

 致命傷を負ったエアは、今回の人柱として今も着々と準備が進められている。

 流血による血液検査も、その一貫だ。 俺は、そこの情報を拝借したに過ぎない」


 ――人柱、選別、サバイバルゲーム。


 パズルのピースをはめるかのように、ソロウは単語が繋がっていくのを感じる。

 それと同時に、信じたくない思いもまた、無視できなくなっていた。


「奴らが欲しがっているのは、純粋な子どもの頭脳だけだからな。善悪を測れる頭が無事なら、それで良いんだよ」


 言葉だけでなく、サイキのまとう空気までもが瞬時に鋭利なものへと変わり、ソロウは思わずゴクリと唾を飲んだ。


 ――頭が無事なら、それじゃエアは……。


 致命傷だとサイキは言った。このままでは人柱としてエアは助からないとその言葉は告げている。


 ――俺はまた、見殺しにしてしまうのか?


 目の前のサイキは、機会を狙っていたと言っていた。

 現在に至るまで、命を落とすことになったVRに紛れ、その存在を繋いでまで成し遂げたいことがあるのだろう。


『後悔しても?』


『それが結果なら、最後には受け入れるさ。良し悪しは、簡単には割りきれないしな』


 少女のエアに、ソロウはそう答えた。けれども今、その言葉を受け入れることは出来なかった。


『……この先も、そう言えるのかなぁ?』


 焚き火を囲んだあの日、少女のサイキがソロウに言った。彼女は自分になにかを重ねて見ていたのではないだろうか。

 なら、目の前のサイキも敵ではないはずだった。


「……人柱がなんなのか、俺は知らない。ただ、エアを助けたいんだ。

 お前――サイキは、敵か、味方……でいいのか?」


 確かめるように、恐る恐るソロウがサイキを見る。エアはまだ生きている。助けられる可能性があるのなら、ソロウはそれにすがりたかった。


「人柱なんて言葉のままだ。AIは完璧ではない。善悪を司る部分をずっと、子どもの頭脳を使って肩代わりさせることで埋めている」


 サイキはソロウが隠した斧を、造作もなく探し当て片手で軽々と担いでいた。


「俺はずっと、それを壊したくて仕方がなかった。優しいヤツに全てを背負わせるなんて、間違ってるだろう?

 次代に選ばれた孫は、それさえも抱え――最後の人柱として永遠を生きる覚悟のようだったが、な!」


 悲しく告げたサイキは、おもむろに斧を振りかぶり、ギャレーの床に傷を穿った。

 下は瓦礫と地面かとソロウが思えば、そこに現れたのは光の粒子が流れるネットワークの渦だった。


「……限界を迎えた今代の人柱は、俺の親友でな。壊れゆく中でも、色々と便宜を図ってくれていた。

 さあ、若きハッカーよ。ここに、お前ならば、何を望む?」


「――っ!」


 ニヤリと笑うサイキに、ソロウはゾクゾクと好奇心を刺激された。不安や疑惑、理不尽に無力感、後悔も――もう異常事態の連続で、思考が麻痺していたのかも知れない。


 ――未知の領域、未知の思想、糞みたいな奴らの存在。


 ドーム内で神的なAIは、一枚岩ではなかったらしい。人柱が居なければ成り立たないなど、なんて人間臭いのか。

 知らないことを知れる――その手段が今、ソロウの目の前にある。


「サイキが、やりたいんじゃなかったのか?

 お前からしたらぽっと出の……俺なんかに、大役を任せて良いのかよ?」


 目の前にあるのは、VRに設定された平成時代の外側。膨大なデータの奔流は、ソロウの専売特許だ。

 口では謙遜しておきながら、そこに抱くのは、不謹慎なまでの好奇心であり、ソロウに恐怖など微塵もなかった。


「俺はどこまでいっても実体の無い、ただの幽霊だからな。《《サイキ》》は、ソロウに賭けることにしたんだ」


「それは光栄だな。俺も、壊すことしか出来ないけど?」


 ソロウの口許が自然とにやけて、穿った穴から漏れたデータが粒子となって漂っている。

 サイキが言ったソロウの望み――ずっと渇望していた馴染みある愛機が、形となって手元に顕現した。


 ――先ずは、セキュリティをぶっ壊し主導権を奪い返す!


 サイキが穿った穴――そこに触れれば、ビリッと全身に電流が流れるようだった。

 漏れ出た粒子が、ソロウの周りでパチパチと弾けて消える。


「――っ!」


 ソロウの愛機は、触れずとも稼働しているようで、画面が瞬く間に変わっている。

 いつもなら画面越しに見る電子の世界。それが全身を通して、内に流れ込むようだった。

 視界には変わらずギャレーの背景が映っているのに、光信号と文字の羅列が流れていくのも同時に見えていた。


 ――俺自身が、デバイスか!


 すでにVR装置に全身を繋いでいる状態だった。何も不思議なことではない。

 勝手が分かれば、あとは試行錯誤を繰り返していけばいい。望みのものを選びとるまで、ひたすら作業を続けるだけだった。


 ――先ずは、そう……このイカれたVRを俺が創り変える。


 指定範囲を無人島全域に設定し、その支配権を一つ一つ強奪していく。

 ジジッと、ノイズ混じりにエフェクトがかき変わっていく。予想に反して、まるでそれを待っていたかのように、システムは無抵抗だった。

 もしくは、エアを人柱として選び役目を終えたと見切りをつけたのか。


『馬鹿! なんで庇ったりした!』


「――っ!?」


 突然、ソロウの脳裏に誰かの叱咤する怒鳴り声が響いた。かなり切羽詰まった男の声で、必死なのが窺える。


『……だって、僕より、君の方が……チームには必要だろ?』


『あのな、友達をそんな定義で当てはめるわけあるか!』


 怒鳴り声を耳ではなく頭で聞きながら、視界にノイズが混じった。景色が変わっていく。

 ソロウの目の前が真っ赤に塗り潰されて、何も見えなかった。

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