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カンディデイト・チルドレン~人柱の少女を救う術~  作者: 松平 ちこ


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第21話 サイキの告白タイム

「ソロウ、これはいったい……」


 戻ってきたクレヴァーがその凄惨な光景に、追及する。スライは後ろの方で息を飲んで固まっていた。


「ん、クレヴァーたちも戻ったか……」


 やや疲れ気味に、ソロウはそれだけを口にする。説明する気力は、どこにもなかった。

 今になって、先ほどまでの生々しさが実感を伴って押し寄せてくる。


 ――もう、洗いに行ってる暇はないな。


 小康状態のエアの側を離れるのも気がかりだ。残りのメンバーを放っておくことも出来ない。

 エアと二人、雑談をしながら教員の血を川へ洗いに行ったのは、つい昨日だった。それをとても遠い日のように感じてしまう。


「……サイキ、ウインドブレーカーをくれ」


「いいよー」


 せめて目に見える汚れを心証的に減らそうと、ソロウは長袖の着物姿であるサイキへねだる。

 彼女は、快くナップザックからウインドブレーカーを差し出してくれた。


 ソロウは人目を気にせず、着替え始める。血を吸って重たかった服を脱ぎ捨てれば、不思議と気持ちも軽くなった。


 ――うん。もうあれこれ考えるのは止めよう。


 七十二時間も待っていられない。残りがあと何時間かなんて計算するのも面倒だ。

 そこまで保つか、エアの状態が気がかりだった。


「悪い、クレヴァー。ここを任せてもいいか?」


 そう言ってソロウは、ゆっくりと立ち上がる。隣にいたサイキが、無言で見つめてきた。


「任せるって言っても……」


「ああ、きっともう、何も起こらないだろう。居てくれるだけでいい」


 銃の弾は、エア曰く使いきったらしい。シュルードは後ろに縛られたまま、地面に転がっている。

 あそこから何かするとは、考えられない。舌でも噛むなら別だが、そんな意気地は、もはやないだろう。


「少し、サイキと話がある。あっちの残骸の中に居てるから、何かあれば呼んでくれ」


 クレヴァーへ再度頼めば、仕方がないといった風情で変わってくれた。

 今、まともなのはクレヴァーだけだ。スライもウェアリーもエアと同じ女子。受けた衝撃が大きすぎた。


「なになに、告白タイム?」


「……そう言うのいい。もう、分かってるんじゃないのか?」


 残骸に向かう道すがら、サイキが明るく話しかけてくる。その茶番に付き合う気は、今のソロウにはなかった。


「なんのこと?」


 ギャレーに足を踏み入れ、ソロウはサイキと対峙した。


「……ゲームマスターではない、と思う。でも目の前のサイキは、俺の知るサイキと少し違うよな?」


 憶測を形にするように、ゆっくりとソロウは口にする。今まではただのバグであり、子どもたちから親しまれるキャラだった。


 目の前にいる今の彼女は、不和を生む以外では、子どもたちと積極的な交流をしているようには見えなかった。

 何かのシナリオに沿って歩いているような、確認をしているような一歩引いた様子がずっとあった。


 ――それは、エアも同じ。


 望んだことだと撃たれたエアは言った。これから起こることをある程度、知っているような口ぶりだった。

 今までのVRでは、ただ冷静沈着で頼もしいヤツだったのに。ここに来て、異質かつ有能さが目立っていた。


「……そもそも、乗っ取られること自体がおかしいんだ。AIは、完璧なんだから。

 だから、今のこの状況はある意味、想定されたイベントのようなものじゃないのか?」


 ――サイキとエアも、そこで何らかの役割を与えられてるとすれば?


 辻褄が合うのではないだろうか。ソロウはそう考えていた。サイキはそれを面白そうに目を細めて、聞いていた。


「聞かれたら、困るんじゃなかったの?」


「困るようなことなら、もう……今さらだ」


 理由はどうあれ、人にナイフを突き立てた行為は、リアルでは即、厳格に処罰される。

 娯楽を目的とした家庭用VRではなく、社会性を養うための義務教育VRで、ソロウはやらかしたのだ。

 ログアウトした先の、身柄の自由などあってないようなものだろう。


「今さらだったら、俺は――もう、俺のやりたいようにやっても良いじゃないか」


 ソロウは自身の手を見つめて、肉を裂く感触を思い出す。暗く小さく笑うと、確かめるように握りこぶしを作った。


「……」


 覚悟を決めたソロウの顔を見て、一瞬だけキョトンとしたサイキは、にまっと笑う。残骸とはいえ個室のようなギャレーの中で、突然風が巻き起こった。


「半分ハズレで半分当たりだな、ハッカー様」


「……お前は?」


 風が止んで、サイキが居た場所に姿を現したのは少年だった。

 服装は着物、下半身は袴になっていた。

 黒い髪を後ろでヒト括りにし、前髪が癖で少し外側に跳ねていた。


「お前たちが呼ぶ《《サイキ》》だよ。正確には、日本サーバーにおけるVR内での残留思念の集合体。それの一部が今の俺」


 胸に手を当て、不遜な態度で語る彼は、少女のサイキとは異なっていた。


「……ずいぶんと、キャラが違うな?」


「いたいけな少女だと、皆。警戒心が緩むだろう? 何かと都合がいいんだよ。

 そして集合体だからな。表出する意識は、元になった外見に引っ張られやすい」


 少女の姿をしたサイキは、少女のように可愛らしく。少年の姿をしたサイキは、少年らしく不敵な態度になる、ということらしい。


 ――あの特徴的な癖っ毛、エアに似てる……?


 目の前の少年にソロウが警戒心を抱けば、彼はフッと斜に構えて笑うのだった。

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