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カンディデイト・チルドレン~人柱の少女を救う術~  作者: 松平 ちこ


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第19話 相棒というより、期待を込めて

「……」


 ソロウたちを見送って、エアは周囲を改めて確認する。

 焚き火にサイキ、テントにティミッドと付き添うウェアリー、離れた木のところにシュルードがいる。


 ――留守を任されたわけだけど、どうしようか。


 このVRでのエアの役回りを考えて、優先順位をつけていく。ウェアリーとは、昨夜話をしているから問題はないだろう。

 シュルードはもう少ししてから、声をかけに行きたい。サイキについては、そもそも頭数に入れていなかった。


 ――私に関係ないからね。


 VRの名物でしかない。リアルの生きた人間ではないのだから、気にするだけ不要というものだった。


「……先生を見に行くか」


 あれから一日経った。VRの再現度を確認するためにも必要だろうと、エアは安置の場所へと向かう。

 ソロウが見に行っていないことには気づいていた。


 ――ドームで暮らしてるわりにはソロウって素行不良だけど。知識しかないから、他はただの子どもだよね。


 逆にエアの知識は偏っているけれど、荒事には慣れていた。

 適材適所でバランスの取れたメンバーであるとエアも分かっているから、そこに不満は無い。


「……臭いを、なんとかしてほしいな」


 近づくにつれ、やはり独特な臭いが漂ってくる。リアリティを求めていない部分で、現実に忠実に再現しようとしてくるのはいかがなものか。

 エアは良いとして、他はそうはいかないだろう。


 膝を折って、手を合わせて祈りを捧げる。エアは、彼女が本当に死んだと確信していた。だからこそ、VR内でも礼を尽くすのだ。


「ごめんね。直接触れるわけには、いかないから」


 適当に拾った木の枝で、かつて人だったものに触れる。リアリティがあるからこそ、現実と同じ扱いをすべきだった。

 死後硬直の具合、虫のたかり方、損壊の様子を確認して、エアはその場を離れた。

 長居をすると、衣服に臭いが移りかねなかった。


 ――拠点は、やっぱり移動しないとね。


 ソロウがライターを持っているから、燃やすことは可能だろう。けれど彼はともかく子どもたちの前では、それは出来ない選択だった。

 エアが異端視されるのも別に構わないが、要らぬ火種は作らない方がいい。


 ――聞きたそうにしてるソロウに、無駄な負担がいくだろうしね。


「海、ちゃんと向かえてるかなぁ」


 今朝、飛行機の残骸から物資を調達したと話したソロウは、何かを隠している様子だった。

 大方、飛行機で良くないものを見つけたか何かだとエアは当たりをつけている。隠すなら、もっと上手に嘘をついてほしい。


「エア、お帰り~」


「サイキ、火の番がすっかり板についたね」


 エアは当たり障りなく、サイキを労った。残ったパンと缶ジュースを手に取る。


「えへへ。大事な役割をソロウに任されたからね!」


 嬉そうに笑うサイキは、見た目だけは立派な子どもだ。

 中身がそうではないと、エアも気づいていた。さらにはその正体も予想がついている。


「……サイキは、ソロウが好きなの?」


「というよりは期待してる。エアもでしょ?」


 スッと目から光が消えて、サイキがエアを見つめてきた。それを真っ向から受け止めて、エアは微笑を浮かべる。


「そうだね。だから、ソロウの味方でいてあげて」


「エアは、それで良いの? 後悔しない?」


「私はもう、覚悟を決めてるから」


 そう言いおいて、エアはシュルードの方へ向かう。

 ログインをして拠点に辿り着くまでに、気持ちの整理はつけてきている。

 これから何が起ころうとも、全てを受け入れるつもりだった。



「おかしい、おかしい、おかしい。狂ってる。皆、皆、どうかしてる。寝ても覚めても、糞みたいなゲームが終わらないなんて。人が死んだ、死んだんだぞ。なんで平気で笑ってる。なんで、何もなかったみたいに話してる。気持ち悪い、気持ち悪い……」


「シュルード、食べれなくても飲めそうなら、飲むだけでも良いから、どう?」


 エアが前に立っても、視線を合わせることなくブツブツと呟き続けるシュルードに声をかける。

 返事を期待してはいなかったから、エアはシュルードの座る木の隣にある木へ腰を下ろす。


 ――依存か、中に何かあるのか。


 シュルードはずっと、ナップザックを抱え込んでいる。エアは、それをずっと警戒していた。

 ソロウから、各自のランダム配布の荷物は聞いていた。

 現物を見せず申告しただけだったのは、ウェアリーだ。これは合流時に、それとなく中身を確認をした。


 開始時のアナウンスに、一人ひとつと言われていた。タオルが四枚というのは、一種ひとつの扱いだろう。

 なぜなら厳密には、ソロウの方もナイフとナイフのカバーの二つが支給されていたからだ。

 エアが実際に確認出来ていないのは、シュルードだけだ。タオルを一枚見せていたらしいが、ソロウのようにカバー扱いなら、他にも何かあると十分に考えられた。


 ――ただの外れ枠の可能性もあるけれど、ずっとナップザックを手放さないから……。


 構いすぎても、構わなさすぎても、危険なことには変わりないとエアは思っている。

 少し離れた横に座って、シュルードの様子を伺っていた。


「……そうだ、強制ログアウトがあるじゃないか、先生だって、きっとそれで――」


 急に無言になったシュルードの様子が一変する。

 ナップザックに手を掛けたのを見て、エアは身を乗り出した。


 ダーン。


 一斉に鳥が羽ばたき、木々がざわめいた。硬質な音が耳に突き刺さって、耳鳴りで音が遠くなった。


「シュルード……」


 遅れてきた灼熱の痛みに顔を曇らせ、エアは名を呼んだ。

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