第17話 三日目の朝、それぞれの向かう先
「あれ? この食料はどこから?」
おはようと、目覚めたクレヴァーが焚き火に近寄り、広げた毛布の上にある食料や飲み物に目を向けた。
「飛行機の残骸から、ちょいとな」
「灯台もと暗しか。ソロウは、抜け目無いね」
いたずらっぽくソロウが返すと、クレヴァーが笑う。目元が赤く腫れているが、思いっきり泣いた分、吹っ切れたようだった。
「んー。寝たらスッキリしたっ!」
大きな明るい声が、テントの方からも聞こえた。少ししてスライが走ってくる。
彼女は目の前に並ぶ食料を見て、目を輝かせていた。
「わぁ! なにこれ、美味しそう!」
「待て待て、皆が集まってからにしろ。好きなの食べていいから」
「ええー、お預け!? 言ったなぁ。後からダメって、無しだからね!」
よだれを垂らしそうな勢いのスライを、ソロウが宥めて近くに座らせた。
「おはよう。毛布があるなら、もっと早く出してほしかったな」
あくびを噛み締めがら、ウェアリーがエアと一緒に歩いてくる。
「そう言うなよ、ウェアリー。今朝見つけたんだよ。人数分あるから、後で配る」
客席の方からも、燃えてない毛布を集めておいて正解だったらしい。今日からは寝心地の改善が見込めそうだった。
「ソロウ、ティミッドが熱を出したと思う」
「怪我か? 病気か?」
エアが後ろを指して報告してくるのに対し、ソロウもさらに訊ねた。どちらかによって、対応の仕方も変わるからだ。
ティミッドは、雑魚寝のまま起きてくる様子は無い。
「見た感じ怪我は無いね。たぶん昨日のストレスだと思う」
「あー。感染のリスクがないなら、まぁ」
そう言いながら、ソロウはナップザックを取り出す。救急キットを回収していたと、思い出したからだ。
「……冷却シート。これで、辛さが少しはマシになるだろ。あと、誰か側についてた方がいいな」
冷却シートと、栄養のための缶ジュースを持ち、ソロウが考え込む。今後の方針を決めるのに、ソロウは中心にいたかったからだ。そこへ手を上げたのが、ウェアリーだった。
「アタシがついてる。貼るだけでいい?」
「ああ、首筋か額に貼ってやれ。あと朝食分に好きなの持っていってくれ」
看護セットを手渡してソロウが言うと、ウェアリーは菓子パンを二つ選んで、テントへ向かった。
「シュルードは要らないって」
「……エア、よく声をかけれたな?」
ウェアリーと入れ替わりに、シュルードの方へ行っていたエアが戻ってくる。
それに、ソロウは素直に感心した。同じことをしろと言われても、正直やりたくないからだ。
「パンやジュースがあるよって、言っただけだよ。普通でしょ?」
ケロリとして、エアが軽く答えた。全員の体調を確認し終えたからだろう。空いたスペースに腰を下ろしていた。
「僕も、あのシュルードに声をかけるのは、勇気要るなぁ」
クレヴァーが遠目に見て、苦笑いを浮かべていた。
――いつも以上に、ずっとブツブツ言ってて不穏すぎるよな。
口には出さず、ソロウも思う。まだ、そっとしておいた方が無難かと考えていたからだ。けれど、エアは違ったようだ。
「ああ言うのを一人にしとくのも、ね。構いすぎるのも、確かに危ないけど。とりあえず、また後で食事は届けてみるよ」
「じゃあ。まぁ……それはエアに任せるとして、ほら、スライ。好きなの選んでいいぞ」
「やったー! ありがとう。ソロウ」
空元気が当てはまるだろう。いつも以上に明るいスライへ、朝食選びの一番を譲る。嬉々として、パンとジュースを選んでいた。
その後に、クレヴァー、エア、ソロウが順に選んでいく。
「で、これからどうするんだい?」
パンを口に運びながら、クレヴァーが話を切り出した。
「拠点を移すかどうかの話は、昨日エアとしていたが……」
「ティミッドを動かすのは得策じゃないね。先に拠点を作ってから、折を見て移動の方がいいかもしれない」
ソロウがエアに話を振れば、現実的な妥協案としてエアが進言した。
「え、移動するの?」
それに、スライが驚きの声を上げる。
「ゲームを生き残るためにな。海の方へ出てみる案があるんだよ。その時はまだ、この食料も無かったしな」
ソロウが説明を続けて、クレヴァーとスライを見た。
昨日の今日だからこそ、十分な朝食を振る舞った。昼や夜は各自の様子を見て、また適切な配分にすることも、ソロウは視野に入れていた。
「海かぁ。魚だっけ、あれっているのかな?」
「いたとして君、泳ぐのかい? それとも釣るのかな?」
「皆、捌けるの? すごいねぇ、魚だって血が出るのに」
スライの一言に、クレヴァーが茶々を入れた。サイキがそれに混ざって、楽しそうに笑っている。
――サイキ。不穏なの止めろって、やっと持ち直したんだから。
ソロウは冷や冷やしながら、成り行きを見守る。ふと、シュルードの方へ視線を向けると、ゾクリと背筋が冷えた。
離れたところから、シュルードがずっと見ていた。
ナップザックと膝を抱えて座り込んでいる。その暗く淀んだ目を皆へ向けて、不快そうに睨んでいた。
「なんで笑ってられるんだよ、状況を見ろよ。バカなんじゃないのか。昨日あんなのを見ておいて、それで平気なのか。
食べられるなんて、おかしいだろ。あり得ないだろ、閉じ込められてるのに。
出られるか、分からないのに……」
ブツブツと呟く声は、朝の冷たい風にさらわれて誰の耳にも届かない。




