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カンディデイト・チルドレン~人柱の少女を救う術~  作者: 松平 ちこ


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第16話 形あるものとそうでないもの

「さあて、使えるものを片っ端から漁るかね」


 夜明けとともに、ソロウは飛行機の残骸へと足を踏み入れた。何かあるはずだと、予想しての行動だった。

 焼け焦げた臭いが鼻につくが、丸一日放置すれば、火の手も落ち着いただろうと考えた。


 ――ここだけは、VRかつゲームぽさが残ってるからな。


 最初の設定では、修学旅行中の事故だった。大人が全滅、子どもだけが生き残ったとアナウンスが流れていた。

 けれど、燃え方はいかにも事故がありましたという演出のみで、飛行機の形を残して全焼していない。大人の死体や血痕もないのだ。


 ソロウの火傷や、教員の扱いはあれだけリアルに寄せられていた。

 ヘリの墜落にしてもそう。今も遠目にまだ燃えているのが分かるほどで、あちらへは当分近寄れないと思っている。


「本来の義務教育の範囲なのか、ゲームマスターによるチュートリアルのお目こぼしなのかは知らないが」


 ソロウは言いながら、ギャレーの物色を始める。

 チルド関連は食中毒が怖い。冷蔵、冷凍はあえて開けずに放置し、非常用の備品が入ってそうなところを順番に開けていく。

 焦げて変形した扉は、ナイフを使ってこじ開けた。


「お、こっちは缶だな。パンもいけるか。菓子と……非常食、それに救急キット」


 扉を開けるに留まって、中を確認すると次へと移った。

 そうしてさらに、毛布と懐中電灯など実用品も入手する。

 修学旅行のくだりで予想は出来たが、長距離移動の飛行機は想定されていないのだろう。物資はあまり多くはなかった。


「これだけあれば、まぁ十分だろ」


 救急キットはソロウのナップザックへ入れ、次に毛布を広げ朝食分だけをそこへ乗せて包み、外へと運び出す。

 過食を警戒して、残りはそのままギャレーに置いておく。


「お、なんかいっぱいだねぇ」


「ああ、使えそうなものが色々あったからな。ほら」


 サイキが焚き火をつつきながら、ソロウに話しかけてくる

 別の毛布を地面に敷いて、ソロウはサイキへ促した。サイキは首をかしげる。


「なに?」


「ずっと座ってるのも疲れるだろ、毛布の上ってだけでも負担は減るかな、と」


「ふわふわだもんね」


「そうそう」


 夜分にしたサイキとの話が、夢だったのかと錯覚するほどに今の彼女は普通だった。

 あれから急に話題を変えたのも、彼女からだった。


『……ふふ。友だちかぁ。何かあったら手伝うから遠慮なく言ってね! 応援してるよ!』


 今も協力的ではあるのだが、得体が知れないのは変わらない。いつまた、能天気を装って不穏分子を投下してくるか読めなかった。


 ――分からないことばっかりだ。


 サイキ本人に、正体を問うことをしないのは、聞いてはいけないことのように感じるからだった。

 目がある場所で、エアに話を聞けないのとは別。聞けば、今の状態が変わってしまう予感のようなものがあった。


 ――サイキの服装は、廃れてしまった和装。


 しかも華やかな振り袖や卒業袴、十二単のようなものではない。普段着として着ても、おかしくない着物だった。

 下駄や足袋ではなく、足だけはスニーカーなのは無人島に合わせたからかもしれない。


 ソロウの服装も、身分証である腕輪が反映されていないだけでなく、ワイシャツにズボンとシンプルな作りで現実世界とは違う。

 性格やよく着る服装を元に、VR内の平成時代に合わせたものに変わっていた。


 ――ネットのない、かなり古い時代の思想も持っているけど。


 打掛なんて、平成時代でも日常で使われていなかったはずだ。今回だけではなく、いつのVRでもサイキは着物姿で現れている。

 老いることもなく、変わらずあり続けるその姿は、何かの狂気すら感じられた。


 焚き火にあたる彼女には、本来あるはずの影が無い。参加権を与えても、VR内の再現度をこだわっていながらも、彼女の存在自体は歓迎されていないように思えた。


「荷物はそれだけ?」


「……一人で運べる量としては、な」


 毛布の感触を味わいながら、サイキが訊ねてきた。

 それに、ソロウは歯切れ悪く答える。食料を小出しにしている以外に、触れてほしくない物も置いてきているからだった。


――隠し事は、俺もだな。


 ギャレーの近くの壁に備え付けられていた斧、消火器、非常用のためにあるそれらを、ソロウはわざわざ人目につかないよう隠してきた。

 ソロウ自身は、ライターにナイフを持ってると言うのに、だ。

 他人が武器になり得るものを持つ可能性を、徹底して排除していた。


――信用していないわけじゃ、ない。


 けれど、成り行きに任せられるほど、ソロウは強くはなかった。

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