第15話 笑顔の裏にあるものは
「可愛い子たち――」
「――の中から……を、選ぶとは……」
ふと目が覚めて、ソロウは視線だけで辺りを見渡した。
――なんだ?
話し声が聞こえた気がして、ゆっくりと起き上がる。ソロウが辺りを見渡しても、不審な人影はなかった。
パチパチと、焚き火の爆ぜる音が静かに響いているだけだ。
テントに雑魚寝している面々に、焚き火の番をしているサイキ。シュルードは変わらず離れたところにいて、今は寝ているようだ。
「あれ、ソロウが起きた?」
「ああ、目が覚めて……」
サイキがソロウに気づいて、声をかけてきた。月は真ん中を過ぎた辺りで、まだ夜だった。
「まだ寝てても良いのにー」
「いや、寝たのは寝たから、もう大丈夫だ」
そうは言いつつも、ソロウは目を擦りながらサイキの向かい側に座った。
VRにログインして声をかけてから、サイキはずっとにこにこと笑っている。
――いつもなら気にならないのに。
飲食も睡眠も不要、VRのバグでありながら、今回参加権利を持ったことによる所持品を全て、ソロウたちへ惜しみ無く渡してくれた。
その献身は、敵ではないと思いたかった。
――俺は、疑うのが役目だろうな。
必要以上に警戒をして、それでちょうど良いはずだ。あの出来事がそうであったように。そうし続けなければ、見殺しにしたことの意味がなくなってしまう。
「まだしんどそうだよ? 寝れば良いのに」
「いや、ちょっと思い出しただけだ」
後ろを振り向くのは、全部終わってからで良い。首を左右に振って、思考を切り替える。
ソロウは在庫の枝を掴むと、焚き火に放った。パチパチと軽い音が、静かに辺りに響く。ゆらりと燃える炎が、見ていて綺麗だと思った。
「ずっと寝てれば、幸せになれるよ?」
「……それは、俺の求めるものじゃないな」
七十二時間を乗りきることを指しているのか、別の何かか、サイキが不思議なことを言いだした。
けれど、それはやはり現実的ではなかった。空腹も脱水も、それなりに心身に影響を与えていたと、昨日からの検証でソロウの分かったことだった。
――湧き水を飲んだら、楽になった。
条件を絞って辿り着いた答えは、やはり王道に七十二時間を乗りきる他にないと言うこと。
サイキの言うように寝て過ごせば、運良く生きているかどうかの賭けになる。
「水を我慢するだけでも、けっこうキツかった。寝てるだけなら、まず死ぬだろ」
「私が、食べ物も、お水も、運んであげるよー?」
「それは、動けないやつにだけで良いよ」
サイキなりの気遣いなのかもしれない。でもそれは、ソロウには不必要なものだった。
「……サイキは俺にとって、ネットの友だちだ。与えられるだけの利害関係には、なりたくない」
――だから、ゲームマスター側じゃないと思わせてくれ。
エアがゲームマスターに対して言った言葉が、ソロウの中で引っ掛かっていた。
『開始以降、ソロウが中心となっていたから、子どもたちの中では不和が起きなかった』
いつも無邪気なサイキの言動、それが今回は輪を乱しかねないと、ソロウは危惧している。
――意図的に不和を引き起こそうと、狙ったものだったら?
そうじゃないと心が揺れるのは、昼間も今も、サイキがちゃんとソロウの指示を汲んで動いている点だった。
「……ソロウは、苦労性だねぇ」
「良いんだよ。それが俺の生き方だから」
「後悔しても?」
「それが結果なら、最後には受け入れるさ。良し悪しは、簡単には割りきれないしな」
ただ見てるだけだった教員の最期も、タラレバではなく、いつかは抱えて生きていくしかないんだ。今がどれだけ、辛かったとしても。
――完璧になんて、なれないから。
救えなかったことを、過去を、後ろを見るばかりではなく、未来へ向かって前へ進む。
綺麗なものばかりではない生き方を選んだのは、ソロウ自身だった。
「……この先も、そう言えるのかなぁ?」
感情の読めない、抑揚の無い声でサイキが言った。笑顔のはずなのに、その目が笑っていなかった。
まるで深淵を覗くように、深い闇の色がそこに垣間見えた気がした。
ゴクリと唾を飲み込んで、寒気を感じながらソロウは答える。
「……俺は、俺に出来ることをずっと考え続けるだけだって」
知的好奇心の欲のままに知識を貪り、それらを使って生きてきた。
ルールに縛られるのではなく、常に選ぶ選択肢を取ってきた。
――たとえ、VRの手のひらの上だとしても。
その中で、抗い続ける選択肢を掴むだけだ。ゲームマスターの思惑を越えて、全員が生き残るために。




