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カンディデイト・チルドレン~人柱の少女を救う術~  作者: 松平 ちこ


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第12話 良いバディです

 ソロウとエアが飛行機の残骸近く、皆の元へと戻った。

 死体を運んだことによる彼らの衣類についた血の汚れを、サイキは素直に悪意なく指摘してきた。


「うわぁ。べとべとだね、二人とも」


「……サイキ、言い方」


 それに呆れた声で返しながら、ソロウは周囲を見渡した。他の者に声をかけることが憚られて、なんとも言えない表情になる。


 ――ひどいな。


 ティミッドは泣きつかれぼんやりしており、シュルードは相変わらずブツブツと何かを言っている。

 スライも空を見つめたまま笑っていて、涙の跡が痛々しい。

 クレヴァーはぼんやりと手を見つめていて、ウェアリーは俯いて動かなかった。


 ――無理もないか。助かると思っただけに、落差がな。


 現実世界では、行動一つとってもAIの指摘があり、小さい怪我すらほぼ無縁の生活を送っていた。

 過去、VRで大怪我をしたり死んだことは個々にあっても、それ自体にリアリティはなく、ゲームオーバーによるログアウトが常だった。


 いくらここが同じVR内でだとしても、先ほどの生々しい出来事は、皆の強烈な傷になったことだろう。ゲームと割りきるには、もう難しい状況だった。


「ソロウ。サイキにここを任せて、水場にいこう。汚れを落とした方がいい」


「これ、放置しとくのか?」


「しばらくは動けないよ。それに私たちの格好を見たら、フラッシュバックの原因にもなる」


 エアに言われて、それもそうかとソロウは納得する。

 ソロウは白い長袖シャツの両脇と腕周りが、赤黒く汚れているだけだ。対するエアは、躊躇いなく動いていたせいもあって、全身がひどく汚れていた。


「水場は近いのか?」


「それなり、かな」


 サイキにその場を頼んで、エアと二人で再び森へ入った。

 最初に名を呼んだ時しかり、サイキはバグらしく物理距離を無視した移動が出来る。

 本人曰く制限はあるらしいのだが、ソロウにそれは分からない。何かあったら、すぐに教えてほしいと頼んでおいた。


「なぁ、エアはなんでそんなに平気そうなんだ?」


「それを言えば、ソロウもでしょ。普通はああなる」


 ソロウが訊ねると、エアは後ろを指差して応えた。

 訊ねておいて、いざ逆に聞かれるとソロウは返答に詰まる。ドームの中、さらにはVRの中、捕まるような下手なことは言えなかった。

 後ろ暗いことを隠すように、ソロウは別のことを口にした。


「俺は、色んなVRをやりこんだから……」


 実際、家庭用VRにはのめり込んでいたし、その延長でずるずると深みにハマっていった。

 さらには本で得た情報のカモフラージュにも、ちょうど良い言い訳だった。


「それは貴方の博識、雑学に富んだ表の理由でしょ。異常な環境下で、平静に居られることの理由じゃないわ」


 それをキッパリとエアに否定されると、いっそ清々しいほどだった。

 普段はそれでやり通していただけに、ソロウは面食らって二の句が継げない。

 ただその言葉選びから、ソロウが普通ではないと、エアが理解していることは分かった。


 ――言えないってことが答えか。


 ソロウのことを深く言及しない、代わりにエアにも詮索をするなと言われているようだった。


「……これからどうする、水場に拠点を移すか? あそこは、もう」


 残り続けるには、あまりにも悲惨なことが起きてしまった。別の場所をと、ソロウは話題を変えて提案をする。


「サイキを入れて八人。森の中に拠点を移すと狭くなるだけ。水場といっても、湧き水と小さな川だから、それならまだ海岸沿いに出る方がいいと思う」


「そういえば、海岸から来たんだっけ?」


 エアが夜に合流したのを思い出して、ソロウは確認した。


「そう。皆の足でなら一日くらいかな。やっぱりVRだなっていうくらい、島の規模は大きくなかった」


「……海岸一周してたとか、言わないよな?」


 遅くなった理由を、そういえば探索していたと、昨晩聞いたこともソロウは思い出していた。


「言わない。少し沿って歩きはしたけど、途中で高そうな木を見つけて、そっちを登ったから」


 ――まさかの木登りかよ。


「そのご慧眼で島の周辺は?」


「……何もなかった。まさか、海へ出る気なの? 本気?」


 見損なった、とでも言いそうな意味ありげな顔で、エアが振り返ってソロウを見た。

 それになぜか慌てて、ソロウは弁明をした。


「いや、サイキが最初に言ってたから、聞いとこうかと思っただけだから!」


「へえ? なんだ。せっかくソロウも、その辺の男子なんだって思ってあげたのに」


 冷めた目で告げるエアの声に、ゾクッとソロウは背筋が寒くなった。

 彼女の返り血だらけの格好が、なお物騒な雰囲気にさせるからだろう。


「いや、そんな勝率もなければ、短絡的な行動とか無理」


 つまらないと言われることもあるが、知識や情報がソロウにとって何よりも安心できる。

 そして今、エアの機嫌は損ねてはいけないと思っていた。


「――あ、着いた」


 気まずいまま、しばらく歩いていると川が見えてきた。それは人一人分といった川幅で、確かに小さかった。


「エア。やる」


 ソロウは、ウインドブレーカーをナップザックから取り出して川辺に置いた。手渡すには彼女の手は血まみれだったからだ。


「良いの?」


「その服、脱いで洗った方が良いだろ。エアのはもう無いし、俺は元々長袖だから問題ない。先に、気が済むまで洗えばいい。

 湧き水は奥だな? 水源見てくるから」


 エアのウインドブレーカーは、教員と一緒にそのまま置いてきた。

 シャツの上に半袖上着を羽織り、アームカバーを着けていたエアに、ウインドブレーカーは必須では無かった。


 ただ、川で水浴びをするなら、終わった後の着替えとしては必要だろうと、ソロウは思ったのだ。


「ソロウ待って、脱いでいって」


「……は?」


「今さらだけど、洗うなら早い方が良いし。まとめて洗う方が早いから、脱いでって」


 手を差し出して、さあとエアは催促する。ソロウはとっさにでかかった言葉を、グッと飲み込んで言われるがままに脱いだ。エアはその間に、靴を脱いでいた。

 半裸になったソロウに目もくれず、シャツを持つと、ザブザブとエアは川へ入っていった。


 ――なんで平気そうなんだよ!


 一人顔を赤らめて、雑念を振り払うようにソロウは水源へと早足に向かった。

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