38 断片
「ガハハハハッ!!今回は随分と派手にやられたな〜」
「…うっさい」
「にしても、お前が毒で膝をつくなんてな…油断してたのもあるが相当強い毒だったんだな」
空気の澄んだ夜空の星を眺めながら俺と親父は草原に横になっていた。
これは夢だ。
明晰夢というやつだろうか…原因は横で笑っている親父なのだろう。
「コレって親父の魔法だよな」
「正解だ。安心しろ、此処にいるオレと現実の俺は繋がっていないからな…オレはお前の理性であり、知性であり……まぁ!お前の『冷静な部分』の象徴だ」
「俺の理性が親父って凄く嫌だな」
「ガハハハハッ!」
コツンと頭に拳が当たる。
痛みはない。
「お前の力が強まり…いや、戻ってきているから…オレはそろそろ形が保てなくなる」
「どういうことだ?」
「オレは元々、お前の魔法の暴走を抑制する為にかけた暗示だ。本体から離れてかけ直されてないし、お前が強くなれば暗示も薄れていくんだよ」
「ふーん」
夜空の色が徐々に変わる。紫色の空が広がり、橙と共に陽の光が顔を出す。
「アレが…お前の魔法だ。これからお前はアレの手綱を握らなきゃあならん」
冷えた指先に熱が籠る。
「昔、寝ぼけて寝床を燃やしたりした、おねしょはしてやるなよ?」
「…へ?俺そんなことしたのか?!」
「ああ…大変だったぜ? 熱いわ眩しいわと思ったら隣で寝てるヤツが光って燃えてるんだからよ」
日の出と共に親父の輪郭がぼやける。
「そんな目をするなよ…別に死に別れる訳じゃあないんだから」
ぶっきらぼうに頭を掴まれる。
「ガハハッ! 悪い夢を見たんだと思っておけ」
空に太陽が昇り、その光を余すことなく全身に受ける。
これは夢であるが、光に当たって身体に熱がみなぎるのが感覚でわかった。
荒唐無稽な、変な夢だった。
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「ん…んん?」
ゆっくりと目蓋が開き、ぼんやりと焦点の合わない視界に鈍った思考が慣れるまで少し時間がかかった。
喉の渇きを潤したいと、近くに水はないかとして違和感を感じた。
身を起こそうとして、失敗する。ジャリンと金属の擦れる音が響き、徐々に自分の現状を理解する。
手足に枷がはめられていた。首にもヒンヤリとした感覚と息苦しさから首にも枷がはめられいるのだ。
驚き、手足をバタつかせるが金属の擦れる音が虚しく響くだけだった。
「落ち着け…落ち着け、こういう時は深呼吸だ…まだ俺は死んでない。…ここは病室か? 見覚えがあるような…ないような…。今何時だ?…最後の記憶は…吸血鬼と戦って…ヘドロが出てきて…雷が降りてきて……???」
窓から差す光から朝のかなり早い時間だということがわかった。時間を意識した瞬間に空腹も実感してしまったが、混乱した思考が暴走して一向に落ち着かない。
その時、扉が開き中に誰かが入って来た。
その人物は真っ直ぐにヘリオスの方へと向かい、顔を見せながら喋りかけてきた。
「やあ、おはよう」
「! えー…と…検査の時の爺さん」
「ああ、名乗ってなかったね」
老人はパーシーと名乗りヘリオスに嵌められ枷を丁寧に外していく。
「ここに運び込まれた時、君の魔力が異常発現してね…意識が戻るまで聖なる銀の枷で拘束させてもらったんだ」
「そうだったか…他の2人は?」
「オリビオ君は軽症で栄養価の高い食事をするようにして退院済み、ガンドルフ君は全治2ヶ月といったところかな? 君程ではないが彼の生命力だともっと早くなるかもだが」
枷が外れたことで上体を起こそうとして、背中に痛みが奔る。
否、痛みではなく熱だ。
脊椎…胸椎が熱せられた鉄のように熱くなり、全身から脂汗が滲み始める。
老人はすぐさま異常を知覚すると外した枷をはめ直す。左腕と左足首に銀の枷がつけられる。
熱は収まらないが、少し呼吸がしやすくなった。
「こ…れは…?」
「君の目覚めさせた魔法の影響だね。生命の危機に敏感になったのかもしれないが、肉体の回復力を底上げするものだ。しかし、過剰すぎる出力が原因で君の身体に負荷がかかっている、そして、それを治そうとしてまた出力が上がる悪循環に陥っている」
「治ら…ない…のか?」
「君の力だ、君が制御せねばそのまま暴走し続けるだろうね。 オリビオ君がどうにかしようと叔母に相談すると言っていたよ」
枷のついた状態でなら多少のコントロールができそうだ。ヘリオスは大きく鼻で息を吸い、肺を満たして、口からゆっくりと吐き出す。これを何回か繰り返しながら自分をまるで興奮した動物をなだめるように落ち着かせる。
「枷を外すよ」
「お願いします」
「…気にすることはないさ、騎士の中には君以上に強くとも君と同じように魔法を暴走させてしまう人もかなりの数いるのだ」
「ふぅ……そうなのが?」
ヘリオスは意外だなと目を丸くする。
中央騎士は選りすぐりの者だけが入団を許される場所だと聞かされていたからだ。
「意外かね? 彼らは日々その力を高めていくが、魔法とは本来人の身には余るものだ、少しの掛け違いで失敗も起こりえる」
枷の外れた状態で熱を発さなくなった。
身体を軽く確認するが問題はない。魔法を使おうと思わなければ暴走もしないことがわかった。
手を叩こうとして、途中で止まる。
一番よく使った魔法を試そうとして、今はその時ではないと感じた。
老人は他の患者も診てくるとその場を立ち去り。ヘリオスは用意された軽食を口にする。




