37 迅雷
黒いヘドロが猛烈に泡立ち、焼き切れた器官を修復しようとするが、仮面の女が腕を一薙ぎして発せられた電撃によって弾ける。
「もう大丈夫よ!」
「誰?」
「不審者?」
「新手か?」
「その反応、助けに来た先輩に酷くありません!」
三者は装備やマントに描かれた紋章から敵ではないことは確信している…それと同時に自分達よりも遥かに強いと確信した。
仮面の女は優美な動作で帽子を取り、舞台役者のような大袈裟なアクションで騎士の礼を披露する。
「私エレオノーラと言います、以後お見知りおき─」
彼女の名乗りの終わり際に飛び散ったヘドロが集まり巨大な腕となり拳を振るい落とす。
「─私、名乗りの最中になんですけど」
振り向くことなく紫電が拳を打ち払う。
エレオノーラの美しいブロンドヘアーが帯電し、少し崩れる。
帽子をかぶり直し、地面に突き刺した槍へ手を添える。
「“地走リ”」
エレオノーラから槍を通じて地面へと電気が奔る。彼女の立つ正面に可視可能な程の強力な電撃が林のように広がる。
オリビオは光から目を瞑り、ガンドルフは圧倒的な破壊力に見惚れた。
光が収まった後には焼けた残骸のみが視界にあった。
崩れた建物の一部が焼却され、赤い熱と黒い煙が立ち込める。
エレオノーラは細かく電気を周囲へと放ちながら警戒していたが暫くして問題ないと判断し帯電を解除する。
「ゴメンね。最後の美味しいところだけとっちゃって」
「構いませんよ…もう満身創痍でしたので」
「ふぅ…もろとも自爆するしか無いかと思ったがしなくて済んだのは上々……我もまだまだだな…」
「つかれ…た…」
「運んであげたいけど…私が運ぶと無事で済まないかもだし……グスタフ先輩なら終わればすぐ来るだろうし待つか」
エレオノーラはゆっくりと身体を伸ばすと、腰のポーチから紙の包みに入ったパンを取り出し食べ始めた。
「…今回の任務…新人にやらせる内容ではない…文句言って……やるぅ…」
「新人と言っても中央は経験者や実績アリのエリートしか入れないから、『この程度でへこたれるな!』とか言う人もいるし、キツければ早めに辞めるのもアリだよ」
「……辞めませ…ん…報告書…たぶん、私が…書かなきゃ……zzz」
「寝ちゃったし、報告書とか考えてるし…私の新人時代よりしっかりしてる」
「……我は今までかなりの死地へ身を投じたが…まだまだだな…」
「大丈夫だよ、私もまだまだ死にかけること多いし」
「…………フフッ…楽しみだ…zzz」
「この子、かなり変だな」
「…ふぅ…見張り頼んでも?」
「うんいいよ」
「……すぅ…すぅ…」
「……一番可愛い寝息だ」
一口程度のパンを口にくわえながら先程屠った敵の下へと歩み寄る。まだ雷撃の熱が冷めず、熱気を放つ地面に飛び散った黒いヘドロ片。
エレオノーラの電撃は自然界の雷と違い、粘り気がある。標的に突き立てた牙を決して離さないかの如く、敵の自由を奪い確実に殺す。
蠢くヘドロにため息と舌打ちをする。
「横槍飛び入りだったからよくわからないけど、まだ死んでないな。幾つか瓶詰めしてもって帰るのがいいかな?」
ポーチからガラスの小瓶を一つ取り出してヘドロを一欠片入れた後に蓋を閉める。握りしめた小瓶に丁寧に魔術をかけて封印する。
無色だったガラスは紫色に変色し、パリパリと静電気のような微弱な電気を発し始めた。
その後は破片一つ一つに電撃を浴びせ完全に再起不能にさせていきながら迎えを待つ。
暫くして、衛生兵を連れたグスタフが近くに落下し合流後、エレオノーラは一足先に自分の足で王都へと帰還した。
グスタフも彼らをパルテではなく王都『ラーマ』へと彼らを送り届けた。




