33 アンデッドスクワッド⑥
「─殺れ」
「Fuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu!!!」
怪人が奇声をあげて身体を大きく揺らす。
まるで、待てを解かれた犬のように目の前の標的に対し一直線に駆け出す。
自切した腕は新しい腕が生え始めていた。それは周囲よりも一回り程細いが、より凶悪に形を変えていた。爪と指が一体化したようになり、鎌のように鋭くそして肉を抉るようにギザギザとした形をしていた。
「ネレイスの自分の身を守れ、周囲を散らす!」
「わかった!─水壁─」
「─我が身より出でよ、底無き深淵を焦がす大火─」
剣を盾にしながら怪人の体当たりを受け止める。
怪人は驚愕する。膂力では明らかに勝っていた筈だ、何より腕を折ったのは確かで、全身のダメージも相当なはずなのに。
「どうした、怪人?動揺が読み取れるぞ?」
「FuSyuuuuuuuuuu!?!?」
怪人は変形した右腕でガンドルフの身体を掴む。
しかし。
爪を立てて掴もうにも上手く行かない。
「そろそろくどいぞ貴様─業炎の方尖柱─」
ガンドルフを中心に空へと貫く火柱が伸びる。
業炎の中、ガンドルフの身体にまとっていた水が熱に耐えられず蒸発していく。
それに合わせて身体の支えが効かなくなり、膝をついてしまう。
先程までのガンドルフはオリビオの魔法による支援によって護られていた。しかし、全力を出したガンドルフの魔法によってその支援はかき消されてしまった。
身体を蝕む痛みと、全力の魔法行使によって流石のガンドルフも疲労の色が浮かぶ。
火柱ほ長くは続かない。時間にして1分程、周囲に焦土だけを残してまるで夢のように霧散した。
その場に残る熱気だけが先程の業火を証明する。
範囲を絞ったこともあり、ガンドルフの周囲と正面にかけてのみであった被害だが、その先に怪人はまだいた。
「F………………F…」
「まさか原型が残るとは…火加減をしたつもりはなかったが……」
「あの怪人は元々、私と同じ系統の魔法を修得していたのだろう…」
「水の魔法か…なるほど合点がいった、どうりで火の通りが悪いわけだ」
「だが、さっきの君の魔法で身体に纏っていた水が霧散したようだ」
「それでもトドメはさせなかったか」
「君が万全なら余裕だっただろう…それに、被害を抑えていただろ?」
「同じだ、常に万全なんてあり得ない…競技ではないのだからな…頼めるか」
「ああ…もうやってるよ」
オリビオは怪人へと近づく。
「F………ぉ…ぁ…」
「この任務に私達3人が選ばれた理由がなんとなくわかったよ」
ネレイス家の水を操る魔法は特別だ。
それは“水を操る魔法”自体は世界に溢れているからだ。水は生物には切っても切れない物だ、神によって創造されたとされる世界で、水を求めるように神の奇跡の模倣した者は多い。
その中でもネレイス家の魔法は頂点に座す物だ。
彼らの本質は操作ではなく支配。
オリビオは潔癖の気がある為か、純水に拘る悪癖があるが意識すれば混じった水も問題なく操作できる。
「─支配・水─」
怪人の動きが止まる。
「─徴収─」
傷口や目、口といった場所から体液が流れ出る。勢いは緩やかだが、量が多く止まらない。
やがて干からびた怪人の遺骸と抜き取られた体液が残った。
「…ヘリオス…」
無感動に見下ろしていた視線を同僚へと向ける。
しかし、先程までいた友はそこにいなかった。
「連れて行かれたようだな」
「奴がこうなったら止められんぞ」
「……なりはしないと思うが、急ごう…私達も時間が無い」
「そうだな…すまぬが、身体を任せてよいか」
ガンドルフの身体に水が這い寄り、巻き付く。
口からもゆっくりと少量づつ流れ込んでくるのを受け入れる。
「夜は魔物の時間だ」
「だが天候は私の味方のようだが…君は?」
「左腕と肺が痛い…足は無事、剣が溶けて金属棒に成り下がった」
なら問題ないだろうと思いながら空を見上げる。
日が落ちたが、星空は見えない。
雲が覆い、空気が重たく淀んできていた。
雰囲気は最悪だ。だが、私は天を味方していた。
「じきに雨が来る」
雨乞い。
とても原始的な魔法である。
水に通じる魔法であれば誰しもが学び、修得可能なものである。
人類が魔法を魔法と呼ぶ前、神への信仰の結果作られた儀式であり、確認可能な範囲で始めて成功した奇跡の模倣。
今回は時間がなく悠長に儀式をするなんてできない。
だが、魔法史のにおいて儀式の簡易化は日夜進歩してきた。
多くの魔法使いが如何に大規模な魔術を簡易にしてきたか。だが、問題ができた。
簡易化すればするほどにどうしても現象は縮小し、不発に終わるケースが増えた。
それらを解決する術としておよそ500年程前に考案され、開発された技術。
それは、前もって儀式を行い、効果の発動を後ろへと遅らせる。
本来よりも効果は多少落ちるが、今は結果が欲しい。
「─祈驟雨─」
「おお…もう集まってきたか…それでどれだけ保つ?」
「ん〜…まだ収集途中だが、2,3時間が限界になるだろうね」
「そうか、少し我に分けてくれ…それと奴らは何処にいる?」
「…」
オリビオは静かに指をさす。
「向こうからヘリオスの魔力が感知できる…弱っている筈なのにしっかりと感知できるのは何故なのだろう」
「そうか、移動はどうする?」
「私が道を作る」
「よしきた、準備を済ませたら即乗り込みだ!」
空を這うように巨大な蛇が伸びる。
鱗のかわりに波打つ表面は僅かな光を歪めて怪しく光を歪める。
遥か上空には巨大な雲の塊が渦を巻いて留まっていた。
留めきれず溢れた雫が雨となり地を潤す。凝縮された、雲は水の染みた布のように重たく、暗い色をしていたが陽の光のない今では確認できる者はいないだろう。
だが、湿った重たいニオイが眼下に満ち始める。




