31 アンデッドスクワッド④
「ここらでいいか」
「それで、彼らを置いて私達だけで話とは?」
「我は自分の魔法の知識しか持たぬ、死霊術が扱えるような魔法となれば限られるが…その対策と他に伝承等はあるか?…と思ってな…魔導狂い」
「………」
言葉は無く、零度の眼光がガンドルフを睨む。
「君でなければ百は拷問しているところだ」
「ハハハッ…殺しはしないところが怖いなぁ」
「…有名なのは砂漠の王族が扱うとされる蘇生の魔法。まぁ、これは無いね…王族の直系のみ且つ復活した者は浄化された姿となるとされているからね」
「あー…御伽噺の」
「だが、その魔法を模倣しようと他の魔導士が自己の魔法に組み込もうと生み出した失敗作………いや、起動しているのだから成功作か…、望んだ結果ではなかっただろうが…」
「…死者に会いたいなどという純粋な願いではないな、今回は死体の軍隊を作るのが目的だろうから成功だろうな」
「そうだね…そしてここまで大掛かりな魔法には媒体となる物が必要になる…操作に用いられる物といえば、虫や糸なんかがあるが」
「今回の蘇生…というより亡者を動かしていた媒体は血液だ」
「血液……吸血鬼か」
「そうだね、ヘリオスの光に嫌悪を示していたから彼らは吸血鬼の従属術がかけられていたのだろう」
「吸血鬼なら一度会ったことがあるな…その時は敵対はしなかったが…奴らは同族を作ることができた筈だが」
「吸血鬼に詳しくないが、余程の理由が無いと同族を作ることなく、自分より下位の眷属を従えるのが大半だと聞いたことがあるが」
「そうだったか…」
「─良くご存知で」
突然、2人とは別の声が会話に混ざった。
オリビオは剣を引き抜こうとし、ガンドルフはそれよりも疾く回し蹴りを繰り出した。
「ぬぅ…!!」
蹴りを放ったガンドルフの踵から火炎を噴き出し勢いを増した蹴りはいとも容易く受け止められた。
そこにいたのは、人…と呼ぶには異質なモノだった。
ブニブニの皮膚は血管が浮き出ており、蒼白く。理性を感じない剥き出しの眼球は獣のように黄色く濁っていた。
体長は2Mは超えるだろうか、長身なはずのガンドルフより二回り大きな身体は筋肉と脂肪が折り重なっており、体毛は一切見られない。
「Fuuuuuuuuuuuuu........」
「気味のッ…悪い!─焼けろ!」
足先から怪人の上半身が覆われる程の炎が噴き出す。
勢い余って背後の家屋にまで被害が出た。
「お、おい!なんて火力だ」
「加減している余裕なぞないぞ!ネレイスの!悠長な構えでは我らも仲間入りするぞ」
「─是非、貴方達も我が軍門に下って貰いたいですね」
「くっ…そこか!」
オリビオの剣先をヒラリと躱す蝙蝠。
「…蝙蝠とは、随分と古典な」
「─悪くないものですよ、蝙蝠」
首筋に吐息がかかる。
「気色の悪い!─"水円刃"─」
自身の周囲を水の刃で切り刻み、ガンドルフの方へと駆け寄る。
背中合わせになりながら会話をする。
「どうするよ…ネレイス」
「私では倒しきれないから君に頑張って貰いたいんだが」
「そうは言ってもだが……事前に用意しておいた魔術は使い切ったんだが…」
ガンドルフの視線の先には皮膚が焼け焦げながらも駆動する巨漢の姿があった。
「人どころか並大抵の魔物なら死んでいるはずの火力だったんだが…」
「そうかい…私の方も一体一体潰しても意味が無いようだ」
オリビオは水の刃を用いて迫る蝙蝠の群れを切り裂くが、数は減るどころか増すばかりである。
そして背中側からの火の明かりで良く蝙蝠が見れるようになったことで気がつく。
この蝙蝠は顔についている器官がどれも一つしかないのだ。
目玉だけ、鼻だけ、口だけの不気味な姿にオリビオは眉をひそめる。
「随分と趣味の悪い…」
「同感だ、薄気味悪くて吐きそうだ」
「…ヘリオスは…この期にどう動くと思う?」
「奴なら…どうだろうな…我は貴様より奴との関わりは短いが」
「逃走だ…非戦闘員がいるからな」
「この戦闘音だ気が付かぬ訳ないか…」
「だから時間を稼ぐ、そして敵の分析だ」
口だけの蝙蝠がニヤニヤと笑いながら言葉を発する。
「─お仲間がいるのですね…ああ、ちいさな子を守って戦っていました」
「…過去形?」
「ええ、貴方達より先に片付けて置きましたよ…なんせ厄介な魔法を修めていたようですので」
「フッ…安い挑発だ」
「─では価値を上げましょう」
ドサっと空から何かが落ちてきた。
グッタリとして動かない、人間だった。
身につけた鎧とそこに刻まれた紋章は王国に仕える騎士の物。勲章のない真新しい白銀の鎧。
口元の酷い火傷痕と切り揃えられた黒い頭髪、薄く開かれた瞼は力無く、何処を見ているでもない視線が虚空を向いていた。
彼の口は僅かに動いているが、既に虫の息である。
「なっ…」
オリビオは咄嗟に動けなかった。ガンドルフが体全体を使って無理やり押し出す形でオリビオを突き飛ばした。
グシャリと嫌な音が響く。
小盾を構えたガンドルフとぶつかる巨漢の拳が、盾を砕き、腕を圧し折り、逸らしきれずガンドルフの胸を突き刺していた。
「ぐふッ…!」
口から血を吐きながらもガンドルフは倒れず、巨漢を掴み、逃さぬようにしながら、己の炎を纏わせた剣を首筋へと突き刺す。
「Fuuuuusyuuuuu」
巨漢の怪人は埒が明かないと自らの腕を自切し、後退る。
「気を…抜くな…よ」
「…!今、診る」
ネレイスはガンドルフの背に触れ、彼の内側の状態を自身の魔法で確認しようとする。
「よせ、そんなことしてる余裕はもうない」
「しかし!」
「胸部なら逸らして、鎧で受け止めた…骨は無事、内臓はちょっとわからんが、支障は無い。…左腕は折れたかもしれぬ…が、魔力操作で誤魔化せる」
「─ハハハッ瀕死じゃないですか」
「フハハハ!姿を見せぬ卑怯者がそちらの方が笑えるぞ腰抜け」
口だけで嘲笑する蝙蝠が更に口を歪める。
「──フフ、強がっても無駄ですよ。ですが、貴方は知性の無い下等眷属にして差し上げましょう」
「ブハハハッ!暗闇で卑しく生きるか弱き寄生虫が上っ面だけ着飾られても、滑稽だ!
道化師にでもなって、見世物小屋を開いたらどうだ?我は好かんが貴族はそういったのを好む変な奴が多いぞ」




