30 アンデッドスクワッド③
不意の奇襲にヘリオスは反応できない…こともなかった。
襲撃者が武器を振り下ろす際に大きな声を先んじて発していたことに助けられた。
頭をかばいながら前方へと転がるように飛び込む。
一瞬遅れた脚に衝撃が伝わる。痛みはあるが、堪えられない程ではない。
それよりも、なによりも、早く、次の言葉を発する必要があった。
「止まれ!!!ガンドルフ!!生存者だ!!!」
一呼吸遅れて中へと飛び込んだガンドルフが右腕に業火を纏わせて振り落とそうとしていた。
(間に合わ──!)
「─支配・牢─」
「うぬぬ…!」
押さえつけられた襲撃者にその拳が当たることは無かった。
「ネレイス、貴様の助けはなくとも止められていたぞ」
「床に穴空けながらは説得力ないよ」
「あ…ああ…」
ガンドルフの拳は床を砕いていた。その破片はオリビオの魔法によって飛び散ることなく捕らえられていた。
ガンドルフの拳には水の球体に包まれていて、不愉快そうに手を払うが、解かれることなく引っ付いていた。
「あ…ああ…」
「さて、何時までも呻き声だけじゃ話にならんな…名前と何故襲ったのかを言ってもらおう」
「うっ…が…」
「ガンドルフ、その子から離れろ…大人が子供の上に乗ってたら喋れないだろ」
「…ぬ、そうか」
ガンドルフは取り押さえていた姿勢を解き、オリビオも降りてくる。
咳き込みながら襲撃者…子供が座り込む。
ヘリオスは指先から僅かに光を発して、子供の顔を見る。
幼い、年齢はようやく二桁になったぐらいだろうか…。
声の感じからして女の子かもしれない…。
襟巻きを伸ばして、口元を隠すようにする。
「ナイスガッツだ…よく生きていてくれた、俺達は騎士だ、遅れてすまなかった」
「はぁ、はぁ…ふぅ…」
「俺の名前はヘリオス。…デカいのがガンドルフ、眉間に皺が寄ってるのがオリビオっていうんだ」
「おい、もっとあるだろう」
「同意だ、その表現は不本意だ」
「あたし…は、レダっていいます」
「そうか」
レダは何かに怯えているように縮こまってしまった。
「これって………我が悪いかな?」
「100そうだろう?何故あそこまで勢い任せに行動する?」
「暗くてわからぬかったし…亡者の類が出たのかと思ってな…ガハハ」
「ガハハ…じゃない…!貴様、騎士として、貴族としての自覚がないのか?」
「そんなことはないぞ?強く、正しく、剛毅であることが我が信条にして騎士道よ」
「……会話にならない……」
後ろで貴族ズは小声で揉めている。
相談しようにも、彼らはグダグダしているな…少し自分で考えよう。
お腹すいたな…。
「─そうだ、飯にしよう」
「え?」
「ん?」「は?」
「上に出よう、そしてご飯にしよう。…さっきまで全く腹が減ってなかったが…疲れたし、休憩にしよう。落ち着いたら聞きたいことや話したいこともあるしできるだろう」
レダの手を取る、彼女は抵抗せずについてきてくれた。
俺の後を追ってオリビオとガンドルフもついてきた。
地下室から出て、適当な家を間借りして食事にする。
放置して悪くするのも考えものだ、傷んでいない食べ物を幾つか拝借して、調理をする。
「料理できるのかい…?」
「まあ…切って、煮て、焼いて、炒めりゃなんだかんだ腹に入るようになるさ」
「えぇ…」
「それに今回は、火と水には困らないから楽できる」
2人の魔法を借りながら適当に切った野菜を鍋に入れて、芋と持ち込んだ香辛料と干し肉も入れる。
そしてできた、料理はお世辞にも美味いとは言えないものだったが、貴族ズ2人は文句を言わずに口にした。
ガンドルフは笑っていたが、オリビオは少し我慢していたように見えた…。
レダは少しづつ口に運びながら味を噛み締めるように食べていた。
「さて、…食べながら話せるか?」
「うん」
「それじゃあ…君はここら辺を襲った魔物を見たのかい?」
「…うん、えっと─」
彼女の話を要約すると、魔物は突然やってきて、その姿は人と変わらない容姿であったらしい。
そして村人を何人も殺した後に、子供や若者を連れ去っていったのだという。
そして殺された村人や家畜、番犬が突然起き上がり、夜になると徘徊をするようになったとのこと。
「村人を何処へ連れ去ったのかとかわかるかい」
「うん…貴族様の別荘」
「別荘…辺境伯のか」
「…前も話したが、そのモンモル辺境伯だっけか怪しくないか」
「そうだね…だが、確証は無いし、私達のやるべきことは、わかっているだろう?」
地図を広げて別荘の位置を探す。
そこは他の村々から少し離れた山の麓であった。
「さて、場所がわかれば正面から押し通るだけだな」
「バカか君は?」
「バカとは…随分と正面からの罵倒だな」
「何故そこまで頭から思考を削げるのか、私にはわからないな」
「策を考えようにも3人ではやれることはなかろう、それに被害が増える一方だ」
「短略的だ応援とこの子の保護を優先すべきだ」
2人の睨み合いから険悪な気配にレダが怯える。
「待て、待て2人とも、仲間同士で険悪になる必要はないだろう…」
「…すまない」
「…むぅ…我も浅はかだった」
こういうのはオリビオの役割では?と思考しながらヘリオスは2人を宥める。
「さて、俺達は3人だ。そしてこの子を保護をしようにもここらは安全じゃない…そして、辺境伯が少し怪しい…となると」
「領地から出て信頼の置ける場所まで行くとなると時間がかかり過ぎる…そうなれば被害が拡大するぞ。それに、一つ気掛かりなことがあるのだ」
「気掛かり…なんのことだ?」
「…派遣された傭兵や騎士の痕跡が殆ど無いことだ」
「たしかに……!」
「ネレイスの…ちょっと良いか?」
「ああ」
「ヘリオス、その娘を少し頼む…我とネレイスで少し作戦会議だ」
「え?…わかった」
「あの…えっと…」
有無を言わさず彼らは外へと出ていってしまった。
耳をすませば聞き取れなくも無いが、出ていったのなら聞かれたく無い内容なのだろう。
レダに皿の片付けを手伝ってもらいながら少し話す。
「美味かったか」
「あんまり」
「そうか……やはり、誰かに食べてもらうなら学ばなければか…」
「けど、嬉しかった…よ」
「…レダは、その…悲しくないのか?」
「…悲しいよ、いっぱい泣いたよ。だけどずっと涙は流れないんだ」
「強い子だな、…俺は昔、嫌なことがあった後は暫く何もできなかった」
「騎士様が?」
「様はやめてくれ、他2人と違って俺は平民だし…そうだな…飯を食べるのも、喋ることも、何かを見ることも、聞くことも、何もかにも嫌になった時期があったんだ」
襟巻越しに口元の火傷痕をなぞる。
「まぁ、涙は流せるなら流して楽になってもいい…無理に流す必要もないが」
「…うん」




