29 アンデッドスクワッド②
「薙ぎ払え!─魔炎熊の拳─」
ガンドルフの肘から拳にかけて轟々と炎が噴き出し、その拳を亡者へと振るう。
放たれた裏拳からさらに伸びる炎の鞭に身体を焼かれた亡者は絶叫しながら斃れ、後方にいた者達を巻き込んで炎上する。
「おい、ネレイスの!貴公の魔法が邪魔だ!我が炎を遮るな!」
「無茶を言うな!それに、貴様はやり過ぎる!」
「─水円刃&水爆弾─!─霧の徴収人─」
だが、この3人の中で最も火力のあるのはガンドルフであることはオリビオも理解している。
周囲に散っていた水分を自分の魔法で集約しながら戦況を整える。
自分に接近してきたものには水で模った円盤状の刃で四肢の腱を切断し、通常ではありえない圧縮をした水の爆弾で距離を取る。
それでも対処できない場合に、自らの剣で斬り伏せる。その際に刃に自身の水を纏わせるのを怠らない。
「フッ…文句を言いながら水分を遠ざけたな…なんだ、実は好きなのか?」
「気色の悪い事を言うな、首の血管を切った後に水で引っ張り出すぞ?」
「ヘリオス、無事か?」
「無事だ、それと俺は好き嫌いは無いが男色の趣味はない」
「我も無いわい!」
ヘリオスは剣を振り下ろし、亡者を袈裟斬りにする。しかし、剣がその途中で抜けなくなった。
既に10体は対処したが、終わりが見えない。
亡者を蹴り飛ばし、強引に剣を引き抜く。飛び散った血が顔にかかったのが気になって全身に魔力を巡らせ体温を引き上げる。
「aaaaaaa…」「aaaaaa!!」「aaaaaaa!!!」
「…何か、俺の方だけ多くないか?」
最初は気の所為かと思ったが違う、明らかにヘリオスの方へと進む数が多い。
「はむッ…─閃光─」
ヘリオスの魔法は彼の身体自体を始点として発動する。
これは、学院のような場所で魔法、ひいては魔術の扱いを学んだことの無い為、体外にて魔力の操作、放出の術を学ぶ機会が無かった為である。
ヘリオスは左手に着けていたグローブを歯で噛みながら脱ぎ、自分の頬を打つ。
彼の左頬から眩い閃光が広がり、その場を一気に白に染める。
「ぬぅッ…!」「バカもの、そういうのは事前に言え…!」
ガンドルフとオリビオは咄嗟に顔を背けたが、眩しさに攻撃の手が止まる。
2人は不味いと感じ、魔法での防御を行使しようとする。
「「「aaaaaaaHAAAAAAAAA!!!!!!」」」
しかし、その必要は無かった。
周囲を囲む亡者達は苦しそうに呻き、動きを止めた。
「…隙ができたな!」
暫くして、3人は息を整えながら背中合わせで警戒を続ける。
「終わったか…?」
「視界に映る限りはもういないな…」
「私の魔法にも反応は無いな」
剣についた血肉を拭い、鞘に収める。
「よし、調査再開だ、それぞれ疑問や気が付いた事を教えてくれ」
「ふむ…一体一体はそれほど強くは無いが、深手程度では動く…頭を身体と離しても動いてきたのは面食らったな」
「そうだね、だけどある程度出血をすると動きが止まったね……文献にある亡者…ゾンビとかアンデッドとか表現方法が豊富にある存在だ」
「顔に血がかかったが、大丈夫かな?魔法で煮沸させたのだが」
「体温で煮沸ってどんな身体ですか…」
「そうか?我もよくやるぞ」
斃した者達を一人一人調べながら一箇所に並べる。
「この人達、どうする」
「埋葬するにも我々だけではな…穴はあるが…しっかりとしてやらんと、また這い出るかもしれんし」
「…そこまで熱心ではないが、教会の教えの通りに供養をしよう…彼らが何を信じていたかはわからないが、私のできる限りの方法で行うよ」
「…なぁ、ここ以外の村もこんな感じかな?」
「かもしれんな…原因となったモノを探し出さねば被害が増えるだけだ…」
オリビオは祈りを捧げるように彼らに組み手を合わせていた。せめてこれ以上彼らの身体が壊れないように、また、少しでも綺麗にするために水で彼らを包み始めた。
「…ん?」
何か、オリビオの動きが止まった。
「どうした?」
「ここには女性がいないな……」
「そういえば、若い男もいないな…」
「…」
3人は嫌な予感が過る。
「どちらにして、死者を冒涜した者を許すことはできない」
「そうだな、不愉快極まる」
「行くか…先ずは被害のあった村を回ろう…そこにも彼らのような者達もいるだろうが…」
3人は村を後にした。
予想は当たっていた。
別の村が遠くに見え始めた頃に、オリビオが魔法を用いて村の探索をすることになった。
「あぁ…既に村人全員が……いや、村人だけではないな…犬も数頭…既に犠牲になっている」
「犬か…人だけではなく動物にまで…」
「他は?」
「流石に、ここからじゃあわからない…先んじて、動かないようにしておくよ」
オリビオはその場で拳を握るような動作をした後、廃村へと向かう。
段々と日が落ち始めた。
「ここも若い人間だけがいないな…」
「人数に関しては最初の村の方が多かった筈だ」
「…犬にも影響があるのなら、鳥や鼠にも警戒が必要かもね」
3人とも、口数が少なくなった。
「他の村にも行くか?」
「言っても同じだと思うが…」
ガタン…と物音がした。
全員がその音に気が付いた。音のする方へと3人が警戒をしながら向かう。
先頭に立ったガンドルフが音の所在地を発見した。
そこはこの村で一番大きな建物…おおよそこの村の長の家だったのだろう…からであった。
石造りの床の一部に木の扉が取り付けられていた。
「地下室があるようだ…そこからだ」
「継続した音は聞こえないな…置いていた物が倒れたのか?」
「………私の水を先行させよう」
「いや、俺が行こう…オリビオは随分魔法を行使し続けている、疲労が隠せてないぞ」
ヘリオスは指先に魔力を集中させると、床下へと通じる木の板を掴み強引にその鍵を壊して持ち上げる。
広がる暗闇を恐れず、飛び込む。
自身の身体を発光させて、周囲を照らそうとした。
「ああ、うああああああああああ!!!!」
彼の背後から奇襲を仕掛けた者がいた。




