24 平穏な一日を
「ご苦労でございますぞ〜君達は2番目に到着ですな」
パルテの関所ではグスタフさん達先輩騎士が先に到着し、我々を迎えてくれた。
1番に到着したガンドルフ達は先に騎士宿舎へと行き、自由時間となっているらしい。
「早朝の到着ですが、本日は丸一日休みですぞ。明日からここで幾つかの任務を渡したり、訓練を行いますのでそのつもりで」
「はい」
「以上、質問は」
「あの…」
グスタフさんは視線を向け、言葉を促す。手を挙げたのはカロンと合流した1人だった。
「サイモンさん…途中で離脱した騎士はどこにおられますか?」
「うむ。彼らなら既に到着し、訓練に励んでもらっていますぞ…ここより北西に少し行った場所が訓練兼途中離脱した騎士の暫くの野営地になります…そこで特別メニューですなー、二,三日すればコチラに合流しますぞ」
「はい…ありがとうございます」
その後、手続きは無く宿舎に誘導され、そこで荷物を降ろす。
今日一日自由と聞いたが、何をしようか迷っているとオリビオとパオロに声をかけられた。
「急にどうしたんだ?」
「ヘリオスさん、こちらへ」
「え?なになになに」
パオロに腕を掴まれ、宿舎の外…厩舎前の水場に連れて来られ、そこに用意されていた椅子に座らされる。
足下には大きな桶が準備されていた。
「あの、…説明をしてくれないデショウカ?」
「ふむ、突然、唐突だから驚いているようだね、まぁ結論から述べると君の髪を切る」
「は?」
ヘリオスが言葉を続けるより先にオリビオの背後から準備万端と水球が迫って来る。
「ちょっ…」
「安心しなよ、君の髪を切るのはパオロだ…パオロは凄いぞ〜頼めば大抵のことは卒なくこなす器用だ」
「もったいなき御言葉…」
「いやいや違う、そこじゃ─何?手足に水が絡まっている!…立てない!」
「それに、私の操る水は不純物を極限まで落とす…ミネラルが無いがその分、柔らかい…。つまり、仕上がりは私のように美しい髪となるのだ!光栄に思いたまえよ!」
近づく水球がゆっくりと顔に当たり形を変化していく、じっくりと頭皮の上を走り、髪と髪の間を過ぎてゆく感触に背中がゾゾゾとなる。
「うっ……!」
「流石ですオリビオ様…ヘリオスさん、先ずは汚れを落とします」
「ゔぅぅ…ぁぁ…」
ヘリオスは今までに感じた事のない感触が頭皮に伝わる。彼からは見えないが、頭を包み水球には細かい気泡を発しながら小刻みに振動をしながらパオロの手に持つ櫛によって梳かれている。
「オリビオ様、追加の水を」
「うむ」
オリビオは本を開き読書を始めていた。パオロの言葉にチラリと一瞬だけの目配せをしただけで、追加の水球と、浮いた汚れを横へと捨てることを済ませる。
「では散髪を開始します。頭を動かさないでくださいね」
チャプンと水球の揺れる音と髪の毛が切られる振動だけの時間が流れる。
「……喋っても?」
「かまいませんよ」
「何故…散髪を?」
「いやぁ~夕食に以前行っていた店を紹介しようと思ってねぇ~」
「はぁ…?」
「君の身嗜みを整える必要があったから…服装は、支給された制服でも良いと思ったから、先ずは髪だと思ったからだね」
「事前説明不足について思うところは?」
「ない!気まぐれな施しこそ貴族の特権!」
「…散髪が施しになる…のか…?」
少し時間が経ち。
「終わりました…もう動いてかまいません」
「うむ、スッキリしたな」
「…」
頭上には水球とそのなかに浮かぶ自分の髪だったものが浮かんでいた。
頭は少し水分を含み風が冷たく感じる。
ヘリオスは少し鼓動を意識する。ほんの少し、熱を生み出し発すると濡れていた毛先が乾いていくのを感じた。
たしかに、頭が軽くなり、視界を横切る黒髪は無くなった。
─うん、悪くはない。
「さて、ディナーまで時間がある…少し街を歩いてみないか?」
「ああ…そうだな」
「お供します」
三人で街歩きを開始しした。
「そういえば、聞いたか?」
屋台が並ぶ広場にて、そう切り出したのはヘリオスだった。
「あの赤髪の大男…ガンドルフなんだが、俺達よりも半日前に到着してたって話」
「ああ…聞いた聞いた。なんでも街で過ごすのも退屈だと言って訓練所に自主的に行ったらしいね」
「よっぽど身体を動かすのが好きなんだな」
今、我々は肉串を片手にベンチに腰掛けながら地図を広げて何処へ向かうかの指標を立てていた。
パオロは肉串屋に何の肉をどのように調理して使っているソースはどんなものなのか確認しに行くといったきり店主と何やら揉めていた。
「謎の肉だが、ソースが濃く歯ごたえも良いな」
と感想を述べたオリビオの疑問解決の為に飛び出したはいいが難航しているようだ。
「おいおいオリビオ…ソース垂れてるぞ」
「ん?」
ヘリオスの言葉に咄嗟に腕を動かすがそれが失敗だった。垂れたソースが彼のシャツについてしまった。
「これはあとが残りそうだ─」
「《支配─集約》」
呟きと共に水滴がどこからともなく現れ集まり、汚れを包むように水の玉を作る。そして、汚れを剥がし浮かせる。
「─ホントに便利な魔法だな」
「当然さ!私ほど繊細かつ優美な魔導士はそういないからね」
その後。
「くっ…申し訳ございませんオリビオ様。レシピや材料について口を割れませんでした………」
パオロは肩を落としながら帰ってきた。
それから、俺達は露店を冷やかしながら目的の高級店に向かっていた。
「そこの若い子や」
声がした。雑多な音に紛れることなく。老婆の声がまっすぐに俺に通じた。
まるでベッタの魔法のように、頭に響くような声だった。
「あぁ…やっぱりだ」
ローブに身を包んだ…声からして老婆と思われる人物は手招きをする。
「なんだ?…すまないが俺はあまり金はないぞ」
「金は取らんよ…ただの通りすがりさ、アタシはね」
宝石や獣の骨を繋げて作られたアクセサリーを首から下げ、ジャラジャラと音を立てながら歩み寄られる。
背は小柄だ、子供のような背丈で俺の腰のあたりに頭がある。
不気味な婆さんだ、だが俺を呼び止めたのは何故か気になった。
「なんだ?俺に何か用があるのか?」
「あぁ…アタシは昔むかしに、王宮に仕える魔導士だったんだがね?まぁ、老いた今じゃ信じられないかもだがね?」
むぅ…長話は苦手なのだが、長くなりそうだ。




