番外 鉄仮面のメルクリン家
ベッタ・メルクリンは両親に愛され、兄弟姉妹に愛され育った。
彼女の顔は両親のどちらにも似ていたが、小動物を思わせる小ぶりの身体つきは父方の祖母に似たのか、家族の中では一番身長が伸びなかった。
上には、姉と双子の兄。下には妹と弟が1人づついてとても賑やかな家庭。
家には両親の他にお祖母ちゃんと従者が3人いる。
姉さんと兄さん達は成人になる前から家業を継ぐ勉強や騎士となる訓練を積んでいた。私も真似をしてみたが、あまり上手く身につかなかった。
お祖母ちゃんに連れられ、屋敷の裏山で植物の勉強なんかをしていた。
下の子達とも一緒によく野山を駆け回って遊んでいた。
そんなある日に私は私の家の噂を聞いたのだ。
なんでも、メルクリン家は血も涙もない一族であると。
領地の人や兄達に付き添っていったパーティで他の貴族の方達から言われて驚いた。
そんな事ないのに。家族はみんな優しくっていい人なのにと。
【学院】に入っても同じことを言われた。
優秀な姉達を揶揄して、鉄仮面の一族と呼ばれた。
「…それは、君達が顔にも声にも出さずにいるからでは?」
「………?」
小首を傾げて、私の疑問に解を提示した人を見つめる。
眉目秀麗を体現したような涼やかな人物は、幼さの残る顔つきから大人びた気配が混じる不思議な人。
【学院】に入る以前からの知り合いであるオリビオ様である。
「小首を傾げられても私が困るのだが?」
「…?」
「ベッタ嬢、君には発声練習が必要なんじゃないのか?」
衝撃。
どうやら我が一族と世間一般との常識の違いをそこで自覚した。
思い返してみれば、自分の兄弟姉妹や父、祖母が笑っている顔を見たことがない………のかもしれない。
だが、彼らから発せられる波長を感知すれば何を思っているのかはわかる。秘密を伝えたければ個別に繋げられるし、皆に共有したければ全員に繋げればいいのだから。
「いや、私には理解できない話なのだがね?」
「ァ…ありが、とう…ございました」
「疑問が解消したのならよかったよ」
思い出せる記憶の中で、始めて声に出して人に話した言葉は感謝だったのは密かに嬉しかった。
それから私は魔法に頼らずに自分で声を発するようになった。
家族にも同じことを話したら、姉と兄達は呆れ、弟妹は首を傾げ、父は母を見つめ、母は笑った。
祖母は、その後に───、いや、それはよそう。
感情豊かだが、メルクリン家はそれを表すことを忘れてしまった。だが、それをわかってもらえることはとても嬉しいことなのだ。




