23 休息
「き、キツい…」
「無理はなさらず、必要でしたらアタシの手を貸しますよ」
「だ、大丈夫です」
森を抜けて岩肌を歩く。
かなりの急勾配で腕と脚を使ってまるで壁に貼り付くような姿勢で進んでいる。
「そろそろ折り返しが近い、そうなれば降りるだけだ」
「その降りるが、昇るよりも辛いことだ」
「ハァ…先の事を言うのは無しだ、今現在も辛ぇのに気が滅入る」
「すまん」
「オリビオ様、こちら少し拓けた地面ですので休憩をとれるスペースがあります」
「そうだね、一度休もう」
「おーい、こっちから見れるぞ」
カロンが何か大声で呼んでいる。
「少し遠いが目的地だ」
「おお…」
王都も大きかったが、目的地のパルテは貿易都市と呼ばれるだけあり、相当な広さがあった。
そして運河とその先に広がる青い水源がキラキラと輝いている。
「あの運河は王都に流れる河が他の河と合流した末に繋がる運河だ…そして、その先がムーン海峡…南部国境だ」
「南部国境か…」
「そういえば、君は北部国境出身だったね。随分遠くに来たものだね」
「そうだな、…そうだ、親父から聞いたことがある…ナンデモアリのパルテの飯は旨いんだと」
「ハハハ…良いね時間があれば共に回るかい?私も屋台や食堂というのに興味があってね…それと、あそこには行きつけのリストランテがあって旨いんだ」
「最高級店なんて庶民にゃあ遠い世界の話されてもなぁ」
「おっと失礼、礼儀作法法がしっかりしてれば服装規定は騎士服で通るが?」
「ケッ…貴族の飯は大皿に絵を描いて眺めるもんだと聞いてたからな、オレは腹いっぱい食える下町飯が腹に合うんでな」
「うむそれも気になるな」
「…ご飯の話を聞いてたらお腹すいちゃいますね」
「アタシはさっきから鳴ってるよ」
「お、女の子があけっぴろに言うもんじゃないよ」
「御頭達〜そろそろ準備できたってよ〜」
「そろそろ、この堅パンともおさらばか…フフ」
「ああ…そうだな保存に良いのはわかるが、味がないのは困りもんだな」
「今日はここを降りて、明日には着けそうだな」
「夜通し歩くのもアリだが」
ヘリオスの言葉にその場の全員が視線を向ける。
言わんとすることは皆同じなのだろう。口下手なヘリオスでも流石に不味いと思い口を開く。
「…下山は登る以上に負担がある。疲労も多いし、また昨日のような襲撃があると大変だ、食料には余裕がある、確実に進もう」
皆それから暫く休息の時間として、足を伸ばしマッサージをしている。
誰が何かを呼びかけた訳ではなかったが…、ソレは静かに開始された。
「何をするんだ?」
「まぁ、見てなって」
シーザー…途中合流した貴族の男は何が行われるのかわからずピエールに聞いたが解答はすぐに始まる。
注目の先、ヘリオスとカロンが手を組み大盤の岩の上に組んだ腕の肘を固定させる。
リンが双方の握られた拳を抑えていた。
「…はじめ!」
その声と同時に抑えていた手が離れる。
ギュッ!!
熱気が増す。両者の腕がはち切れんばかりに筋肉が隆起する。熱を帯び互いに顔が紅くなる。
先手を取ったのはヘリオスだった。先んじて手首を返し相手の力が入らぬようにする。
しかしそれを覆す程の力がカロンにはあった。
返された手をジリジリと元へと戻し始めていた。
押し返されまいと力を込めたヘリオスの手に〝熱〟が帯び始める。
(ハァッ…!なんて熱さだ!グローブ越しにも感じる…マトモに触れたら火傷する!)
(恐ろしき怪力だ…手首を返したのに持っていけない!純粋な腕力では勝てない!)
ヘリオスは全身の力を余すことなく全てを腕へと集約させる。
それは、相手への信頼がなせる技。相手が決して土俵から降りないことへの全力。
カロンはそれに応じる。
ニヤリと口角を上げ、奥歯に力が入る。全身の筋肉の膨張を感じる。踏み込んだ足に、上半身を支える腰に、相手の体重を感じる上腕に、普段の倍の力を込める。
「フフフ…」
「ハハハ…」
互いに全力で手に汗握る戦いに自然と笑みが溢れる。
男達の熱い攻防とは反対ではベッタとチェリアが2人で会話をしながら何やら作業をしていた。
それは草花を広げ、木の実を並べと端から見れば可憐な少女達が花冠を作るような光景に見えただろう。
「こ、この種類の木の実…というか、種には毒があって痺れと発疹が出るので気をつけてくださいね」
「ああ、わかってます。ウチも良く狩りに使ってましたから」
彼女達は毒性のある植物を集め、すり潰したりし、携帯できる形に加工していた。
「そ、そうなんですか!」
「はい。…それとアタシと話すときは魔法…使ってもらって大丈夫ですよ」
「へ?」
「喋り方とかでなんとなくなんですが、ベッタ様は口で喋るの不得手のようで、そっちの方が慣れていらっしゃるのかな…と思いまして」
「は、恥ずかしながら…」
「メルクリン家は無口な方が多いと聞いてましたが、そういうことだったんですね〜」
自分の領主達のことをしれてチェリアは少し満足気だった。
「ううぅぅぅぁぁぁあああ!!」
「しゃぁああああ!!」
場面は戻って、カロンとヘリオスの激闘では互いに拮抗した勝負をしていた。
そう、拮抗した勝負をしていた。
既にヘリオスの稼いだ有利は無くなり、互いの腕は最初の位置に戻っていた。
徐々にカロンへと傾く勝負にヘリオスは抗う。
「……あっ」
「ん!?」
ズドンと衝撃音と共にヘリオスは腕に引っ張られる形で倒れていた。
「ハァ…ハァ…呆気ない、決着だぁ…ハァ…」
「フゥ…フゥ…持久戦では、分が悪い…か、速攻で決めれなかったのが敗因だな…フゥ…」
「お互い一歩も動いていないのにあの消耗とは…!」
「御二方、汗を拭いてくださいね。それとヘリオスさん、打ち付けた患部をこれで冷やしてください」
オリビオは驚嘆し、パオロは手早く手拭いを渡す。
休息のはずが、余計な疲れを負うのはどうなのか。と最初は疑問を浮かべていたオリビオは熱気に当てられ今にも「私もやりたい!」と言いそうなところをパオロからの「やめてください」という視線を受けて我慢する。
大汗をかいた2人は上半身の鎧と服を脱ぎ身体を拭う。
カロンの鍛えられた筋肉は一つの芸術作品のような完成度を誇る。そこに恥じ入る部分はないと堂々と誇張する。身体に入った傷も、勲章であるとその身体に受け入れられていた。
天性の恵体とそれを後押しする戦士の魔法が彼を一流の戦士として支えている。
対するヘリオスは、少し違った見方をしてしまう。
彼の身体は蛇がはい巡ったような火傷痕が目立つ。本人は気にしていないが、見れば見るほど痛々しく見える。その他にも大小様々な傷が目立つ。顔の口周りから首、胸、腹とその火傷はどこか人為的なものに感じられる。
だが、本人が気にしてないのなら何も言うまいとオリビオは口を閉ざすのだった。
「では、皆様そろそろ出立しましょう」
その後、パオロの一声に全員が荷物を背負い歩き始めた。




