22 夢
熱い。
何も見えない。
呼吸が苦しい。
助けて。
“襍ー繧瑚キウ縺ケ鬧?¢蝗槭l霍ウ縺ュ蝗槭l”
周囲には雑音がこだまするが、それらは人の形をしていない。
何かが肩にかかる。誰かの手だろうか?目を向ける。
獣の目。
濁った黄土色に縦に黒い瞳孔と目が合う。
肩に置かれたのは人の手ではなかったと思考した瞬間に鈍い音が耳ではなく、骨を伝って頭に響く。
グチャリグチャリボリゴリ
振り払うように身体を動かす。まるで霧を払うような感覚で獣の姿は消えたが、身体を襲う熱気は増していく。
気づけば素足で焼ける地面に立ち尽くしていた。
…やけに地面が近い。自分の声が高い気がする。
“襍ー繧瑚キウ縺ケ鬧?¢蝗槭l霍ウ縺ュ蝗槭l”
誰かの声が大きくなって頭を叩いてくる。
“深呼吸をしろ…鼻から息を思いっきり吸って口から全部吐き出せ”
言われた通りにする。
“そうだ、冷たい空気を吸って頭を冷やして、熱を吐き出すんだ”
繰り返す。
顔を上げる。
そこには薄っすらと髭の剃り残しが目立つ、皺の深い男の顔があった。
それは、初めて会った時よりも白髪が増え、最後に別れた時よりも年若い顔であった。
「親父…」
「…何事においても頭は冷やしておけよ」
「うん」
「ただし、指先は温めておけ、咄嗟に動かないのは致命的だからな」
いつしか世界は白く、冷たくなっていた。
親父は高い段差を手に持った槍を下に投げ、それにつかまってゆっくりと降りてゆく。
ついて来いとコチラに視線を向けられる。自分も長い木の棒で下へと向け飛び降りる。親父が下で棒を支えてくれている。
「そろそろだ」
親父は普段と違う。何時もは豪快に動く人だが、今日は…というより仕事中は人が変わったように冷たくなる。
「この時期になると渡り鳥が湖に来るんだ」
「知ってるよ、凄い綺麗な翼なんだよね」
「ああ…そうだ、よく知ってるな!」
ニヤリと笑いながら頭を撫でてくれる。
「そんでな、そんな鳥を捕まえようと罠を仕掛ける奴等がいるんだよ」
「…?狩人ならいいんじゃないの?」
「それがな、そういった輩は本当の狩人じゃあないんだ」
「ニセモノ?」
「そうだ、密猟者って言ってな、俺の仕事はそういった悪い奴らがいないか監視するんだ」
親子二人の会話は続いていく。
長い角が折れかけた鹿がいた。
「これは…ミツリョウシャ?」
「いや違う。…怪我の感じからして群の喧嘩だな」
「そっか…」
ボロボロの毛皮は血が混じり、痛々しい。
「ここらは虫が少ないが、南に行くと虫が傷の中に入り込んで内側から食われちまうなんて奴がいるんだとよ」
「へ…?」
「ガハハッ!…安心しろ、しっかり手当てすれば問題ないさ」
親父はゆっくりと鹿に近寄ると手の匂いを嗅がせ、ながら小声で何事か呟く。
「【抗いがたき、微睡み】」
鹿は力が抜けるようにその場に座り込む。
警戒するように目を動かすが、段々と瞼が重たくなる。
「それ俺にもできる?」
「いやーどうだろうな…才能はありそうだがなぁ…俺には教えられんからなぁ」
「どうして?」
「あー…いや、俺にも説明できん」
「むぅ…ケチ」
「ガハハッすまんなー」
親父は笑いながら俺にこういった。
「何かあれば俺はいつでも助言はしてやるさ」
「助言?」
「ああ、直接手助けもしてやるつもりだが、俺も何時までも子どもを縛りたくないからな…頼りたくなったら何時でも言えよ?」
「わかった」
「“さぁ…そろそろ起きろ、お前の心臓が太陽を待ち望んでいるぞ”」
久しぶりに、親父の声を聞いたような気がする。
まだ、別れて一週間程なのに。
だが、少しスッキリした気分だ。
──瞼を開ける──。
背の高い木の御蔭で陽の光は十分に届かない。
少し湿っぽい空気は故郷の朝とまるで違うが、冷たい空気は身体によく馴染む。
テントの前に置かれた桶で顔を洗う。
周囲の木々は既に輝きを失い、虫の羽音が聞こえる。




